コンサルティング物語

コンサルティング物語
「価値観の醸成」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

事業の価値を見極める -新たな事業展開への道-

その1

~ 「社長の勉強会」での対話 ~

事業の本質的価値とは何でしょうか。今回のコンサルティング物語は、100年企業創り株式会社(EMEの別会社)が主催する“社長の勉強会”での対話をご紹介します。この“社長の勉強会”は、定員を10社(1社当たりの参加人数は3名まで)として、2ヶ月に1度開催しています。毎年、テーマを決めて対話を重ねていく形式でおこなっています(1つのテーマを6回にわけて対話をします)。
 昨年のテーマは「事業の価値を見極める」でした。昨年度の参加者は、以下の通りです。

◎U社:複数店舗を展開する食品スーパー
 ・V社長
◎W社:ブライダルイベント会社
 ・X社長:
◎Y社:プラスチック容器製造会社
 ・Z社長
 ・A専務
◎B社:印刷会社(初参加)
 ・C社長 
 ・D常務
◎他3社

 今回のコンサルティング物語では、食品スーパーU社との対話を中心に、お話を進めていきます。食品スーパーU社では、「事業の価値」に対する議論を通じた、経営者の「事業の本質的価値」への気づきから、新たな事業を展開するようになったのです。

(コンサルB)
今回、B社さんのC社長とD常務が初参加ですので、お互いに自己紹介をお願いします。それではB社のC社長からお願いします。
(中略)
(コンサルA)
事前にご案内していましたように、今回から“社長の勉強会”も新しいフェーズに入ります。今年(昨年)のテーマは、「事業の価値を見極める」としました。皆さんには、事前に「自社が展開している事業の価値」を整理してきていただいていますが、第一回目において、「事業の価値を見極める」というテーマの意図、そして考えていただきたい視点についてお話します。そのうえで、皆さんが整理してきた「事業の価値」と対比して考えてください。
(コンサルA)
今回初参加のB社さんがいらっしゃいますので、あらためて、我々が考えている“事業に対する認識”から話をしたいと考えています。以前から参加されている方にとっては、耳にタコができる話かもしれませんが、顧客と向き合うために重要な考え方ですので、あらためて、自社の事業を振り返る機会にしてもらいたいと考えています。
焼き鳥屋さんの事例(事例の内容は、コンサルティング物語「我が社はなぜ顧客から選ばれているのか」を参照願います)でお話ししましたが、「顧客が、自社を選んでいる」のです。言い換えると、「会社は、顧客から選ばれて成り立っている」のです。そして、顧客は、「選ぶ理由をもっている」と同時に、「競合他社と比較して、自社を選んでいる」のです。従って、事業に対して、皆さんが認識しておくべきことは、①会社は、顧客から選ばれて成り立っている、②(顧客が意識しているかどうかは関係なく)顧客は、会社を選ぶ理由をもっている、③顧客は、選ぶ理由を、競合他社と比較して、相対的に評価して会社を選んでいる、という事実なのです。
(コンサルA)
では、我が社は、なぜ顧客から選ばれているのでしょうか。この問いに答えることが、競合他社との差別化につながる、「我が社の価値」に気づくことになります。以前、議論したテーマです。それでは、X社長に質問です。ブライダルイベント会社の「御社の価値」はどのようなものでしたか?そして、その価値を高めるために、どのような取組みをされていますか?
(X社長)
ご指名、ありがとうございます。何度でも、他者に話さないと自社の価値として、まだまだ腑に落ちていないです。話をすることで、新たな気づきが生まれます。弊社では、「我が社の価値」を“感動の時間の創造業”と定義づけています。ブライダルイベントの内容は当然大事ですが、お客様には、「イベントの内容よりも、さらに、イベントの中で過ごしていただく時間に価値を見出していただきたい」と考えているのです。そのためには・・・
(中略)
(コンサルB)
X社長、さすがです。事業の定義と取組みに、一本筋が通っていますね。食品スーパーを経営しているV社長の「御社の価値」はどのようなものでしたか?
(V社長)
弊社では、「美味しさを追究する食品スーパー」を「弊社の価値」として整理しました。しかし、食品スーパーが美味しさを追究するとはどういうことなのか、品質、品揃え、陳列、価格、販売促進、クリンネス、販売員の対応、WEBサイトとの融合・・・ 追究するべきテーマは、数多くあるのですが、以前、議論してきたテーマであるにも関わらず、一本筋が通らないのです。従って、競合のスーパーの動向に、振り回されている状態から脱却できていないのです。
(コンサルA)
V社長、大丈夫です。今回のテーマである「事業の価値」を議論する中で、「自社の価値」も整理していきましょう。印刷会社のB社長の「御社の価値」は、どのようなものでしたか?
(中略)
(コンサルB)
「自社の価値」を整理して、価値を高めるために具体的な取組みをおこなっている社長や、「自社の価値」を整理している途中の社長、いろいろな段階の社長がいらっしゃいますね。しかし、心配はいりません。この場は、テーマに沿って、皆さんと対話し、切磋琢磨することによって、自分の考えを一歩でも、二歩でも、前に進めることを目指していますので、過去のテーマがすべて、整理されているかどうか、どこまでキチンと整理されているかは、ここに参加していただいている皆さんの重要な条件ではないのです。
過去の例で言うと、ある社長は、対話している中で、(自分の)経営の本質が降ってきたかの如く、「そうか、我が社は、こういう存在だったのか」といって、霧が晴れた様子で、会社の方針を整理されたのです。皆さんも、自社の経営の本質が降ってくることを信じてください。
(コンサルA)
まずは、顧客から選ばれている「自社の価値」と自社が展開している「事業の価値」の違いです。
 「自社の価値」は、競合他社と比較して、顧客が自社を選んでいる理由です。言い換えると、自社と顧客と競合他社との関係性の中での「自社の価値」です。一方、 「事業の価値」は、社会における「事業そのものの本質的な価値」です。Y社さんの事業でいうと、「(素材等を考慮せずに)空容器の本質的価値」は何か、別の言い方をすると「空容器がないと、社会においてどのような不具合が発生するか」という問いに回答を求めるものです。
(コンサルB)
我々の事業においても、経営コンサルタントという枠を越えて、「中小企業を支援する事業の価値は何か」、「中小企業を支援する事業がないと、社会においてどのような不具合が発生するか」という問いに回答を求めるのです。
(Z社長)
そのような壮大なこと、考えたこともなかった。プラスチック空容器の価値までは考えたが、空容器そのものの価値まで考えてこなかった。
(コンサルA)
Z社長の業界では、プラスチックに対する社会的な問題が提起されていますね。そうすると、プラスチック空容器の価値のレベルで考えるのではなく、空容器そのものの価値で考えないと、社会的な問題を解決する企業になれないのではないですか。
(Z社長)
確かに、クライアント企業と素材の研究は始めているが、今までは、受け身で研究に取組んできたと言える。「事業の価値」を考えるということは、「社会的な問題を解決する」という視点がいるということですね。
(コンサルA)
さらに、空容器が持つ価値を代替する、新しい商品や技術が開発されるかもしれません。古くは、計算して答えを出すという「算盤の価値」を代替する、電卓が生まれたような事例です。古くてスミマセン(笑)。皆さんも、身近にある代替された商品を探してみてはいかがでしょうか。事業の価値を考える意味が分かってもらえるはずです。

いよいよ、事業の価値を考える対話が始まりました。次回から、どのような対話がおこなわれ、参加者(特に、V社長)が、気づきを得ていったのか ご報告いたします。

その2

~ 事業の価値を見極めるための対話 ~

前回は、まず、代替された商品をピックアップしていきました。算盤から電卓、扇子からハンディファン、ポケットベルから携帯電話(古い (笑))、さらにはカウンターのすし屋からまわるすし屋・・・数多くの代替された商品がピックアップされました。参加者は、事業の本質的価値を認識していなければ、いつ代替された商品が出現するかもしれない、と認識を新たにしたようです。
その上で、事業の価値を整理するモデルとして、プラスチック容器製造会社のY社の、「空容器の価値」について議論しました。そもそも、「空容器がなぜ必要とされるのか」という問いかけから、空容器の原点が「水をすくう行為」にまでさかのぼることに、参加者は目から鱗の気づきを得たようでした(議論の中での認識です。事実を担保するものではありません)。空容器のモデルを踏まえて、あらためて、次回までに、事業の価値を、会社ごとに検討することになったのです。

(コンサルA)
空容器の原点が、「水をすくう行為」にまでさかのぼる という議論は、我々にとってもそうですが、皆さんにとっても、非常に新鮮な議論だったのではないでしょうか。水をすくう行為に対して、Y社が扱っているプラスチック空容器というのは、部分でしかないことを理解していただけましたか。
(X社長)
前回の議論の中で、ブライダルイベントが部分だということは理解できたのですが、なぜか、会社の事業が矮小化されるようで、このギャップの克服に悩みました。
(コンサルB)
X社長の悩みは当然だと思います。我々は、事業が矮小化されるという捉え方ではなく、事業の可能性が無限にあると捉えてほしいのです。そのように考えると、事業に対する視野が広がります。
(C社長)
印刷業界が情報の伝達業だということは、仲間との会合の中で、よく話し合われるテーマです。しかし、情報技術の進化についていけていないのが、印刷業界の実態です。前回の議論を踏まえて、我が社でも、あらためて、常務をはじめ役員と話し合いました。情報伝達は、発信者と受信者がいて、成り立つものだという認識は、合意したのですが、そこから先、我が社がどのように関与していくのかは、議論の途中です。
(コンサルB)
子供が、熱いものに触りそうになったとき、子供を押しのけてでも、子供の安全を守りますね。これも、危ないという情報伝達ではないですか。情報技術の進化だけに捕らわれていると、情報伝達の本質が見えなくなってしまう、そんな恐れはありませんか。
(D常務)
確かに、子供を抱っこして、頬ずりするのも愛情表現、愛情の伝達ですね。
(C社長)
D常務は、2ヶ月前に孫ができて、その孫が可愛くて仕方がないんです(笑)。
(コンサルB)
D常務の発言に、情報伝達の本質が隠されているのではないですか(笑)。
(コンサルA)
V社長は、食品スーパー、もう少し範囲を広げると小売業の事業の本質をどのように捉えましたか。
(V社長)
実は、まだ、あまり理解できていないのです。我が社の一方の側に、メーカー・生産者・卸がいて、もう一方の側に、消費者・お客様がいるのは理解しているのですが、小売業の事業の価値と、我が社が掲げている美味しさと、どのような関係にあるのか、悩みがどんどん深まっている感じです。
(コンサルB)
各店舗の店長と、事業の価値について、話し合いをされましたか。
(V社長)
いえ、自分の頭が整理できていない状態で、店長に話をすることが、良いことなのか悩んでいます。
(コンサルA)
私は、V社長が悩まれていること、そのことが大事なことだと考えています。悩まれるということは、真剣に事業のことを考えていることの証ですから。
(V社長)
そのように言っていただけると嬉しいのですが、実は、自分なりの答えが出せていない状態で、今日、参加するかどうかも迷っていました。
(コンサルA)
前回から、何も考えていないのではなく、考えて、悩んで参加されているのですから、参加することに、何の遠慮もいりませんし、全く心配いりません。  それでは、他の参加者の考えられたこと、気づきの発表をしていただき、あらためて、V社長の小売業の価値について、話し合いましょう。この話し合いも、恐らく、皆さんの認識を整理するヒントになるはずです。
(中略)
(コンサルA)
ありがとうございます。流石、経営者の皆さんです。いろいろな気づきがありました。また、我々からのコメントも踏まえ、さらに、事業の価値を深掘りしていきましょう。
 それでは、先ほどお話ししたように、皆さんで、V社長と一緒に、小売業の価値を考えていきましょう。
 前回、空容器の価値を議論した時のように、「小売業がなぜ必要とされるのか」について議論したいと考えているのですが、今回は、その前に、小売業がなかった時代について、考えてみましょう。小売業がなかった時代とは、どのような時代だったと考えられますか。時代的には、縄文時代や弥生時代でしょうか。
(A専務)
それは、自給自足の時代ではなかったですか。
(コンサルA)
そうですね。自給自足の時代には、小売業は必要がなかったですね。その後、人々の暮らしは、どのように変わっていったのでしょうか。
(C社長)
物々交換をするようになった。まてよ、物々交換も、商品を見せるということで、情報伝達だった訳だ。
(コンサルB)
流石、C社長。情報伝達が、人の営みの中に、深く関わっていることがよくわかります。
(コンサルA)
物々交換をする場所として市が生まれるわけです。でも、その段階でも、市という場があるだけで、小売業は存在しません。仕入れて、販売するという流通の形態が生まれたのは、近江商人が活躍する時代からです。
(V社長)
昔、親父から「天秤の詩」を見せられた。
(コンサルA)
 「天秤の詩“原点編”」に登場する、鍋蓋を天秤棒に担いで行商にでた少年が気づいた「鍋蓋を愛おしく想う心」、それが、「天秤の詩“原点編”」で表現されている「商いの心」ですね。
(「天秤の詩」の解説は省略)
では、質問を戻しましょう。「小売店がなぜ必要とされるのか」あるいは、「時代と共に、なぜ小売業が必要となっていったのか」という質問です。
(A専務)
お客様の欲求を満たすためではないですか。物々交換だと、そこにあるものとしか交換できないけれど、小売りが仕入れてくれると、小売りが持っている、多様なものと交換できる。
(X社長)
別の言い方をすると、お客様の生活を豊かにするためかもしれない。多様なものが手に入るとなると、生活が豊かになる。
(C社長)
生産者の方も、販路が広がって、売れ残りのリスクが減る。近江商人に任せたら、別の場所で販売してくれる。ということは、近江商人は、生産者に対して、安心を提供しているのか?
近江商人がいることによって、市場が広がる!生活が豊かになる!
(V社長)
今まで、自分のスーパーのことしか考えていなかったようです。小売業って、生活を豊かにするものだったんですね。
(コンサルB)
V社長、ここで、議論を終わらせるともったいないですよ。近江商人が行商するようになって、どのように生活が豊かになったと考えられますか。そのために、近江商人がどのような役割を果たしてきたのでしょうか。さらに突っ込んで、議論していきましょう。ここに、「小売業」さらに視野を広げると、「流通業」という事業の本質的な価値があるはずです。

事業の価値を見極めるとき、時には、業界の成り立ちにまで、さかのぼって理解する必要があると考えています。今回は、小売業を含む流通業の成り立ちを、「近江商人」という象徴的な集団をモデルとして、理解するように議論を進めました。
近江商人が行商するようになって、どのように生活が豊かになったのか、そのために、近江商人がどのような役割を果たしてきたのか、さらに議論を続けていきました。
その議論の内容は、他の参加者の気づきもあわせて、次回報告をいたします。