コンサルティング物語

コンサルティング物語
「価値観の醸成」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

社員主導で会社が変わる
-組織の活性化が会社を革新する-

D社の事例 その1

「社員が変わらなければ、会社は良くならない」

運送会社のD社は、トラックを百数十台保有する、中堅の運送会社です。 運送業界は、競合他社との競争が厳しく、荷主さんからの値引き要請も恒常化している、厳しい経営環境の業界です。
D社もご多分に漏れず、競合他社との競争、荷主さんからの値引き要請によって、収益性が悪化していました。
D社の社長は、この苦境を乗り切るためには、社員のレベルアップが不可欠だと考え、社員の育成について、コンサルタントに相談したのです。

コンサルタントは聞きました。

(コンサル)
「D社のおかれている環境はよく判りました。それで、なぜ、人財育成が必要なのですか?」
(社長)
「荷主さんからの信頼を得る為には、コストダウンだけではダメだ。輸送の品質が重要だ。コストダウンは当たり前、“安かろう悪かろう”では、競争にならない。
輸送の品質を上げるためには、社員が変わらないと実現できない。」
(コンサル)
「D社は輸送というサービスを提供しているから、サービスを提供している従業員の質の向上が不可欠、と言う訳ですね。」
(社長)
「そうだ、まずはドライバーが安心して働けるように、また荷主さんへの対応がキチンとできるように、管理部門から人財育成をしていきたい。」

さらに、コンサルタントの質問は続きます。

(コンサル)
「社長は、自社をどのような会社にしたいですか。目指すべき企業のビジョンがありますか。」
(社長)
「まだ、経営ビジョンと言えるものはない。経営ビジョンがなければ人財育成はできませんか。」
(コンサル)
「本来は、経営ビジョンを実現するために、必要な能力を明確にして、必要な能力を発揮できるように人財育成が行われます。 しかし、経営ビジョンがなければ人財育成ができないと言うことはありません。モデルの人財がいらっしゃれば、その人財のレベルに他の社員を引き上げることも重要です。社長が、このレベルの人財になって欲しい、というモデルになる人財はいますか」
(社長)
「特には、いません。強いてあげるならばAさんとBさんです。」
(コンサル)
「では、AさんとBさんは、他の社員とどこが違うのでしょうか。」
(社長)
「任せて、安心です。」
(コンサル)
「任せて安心ということは、AさんBさんは、知識や経験だけでなく、社長の大切にしていることや判断基準を理解されていると言うことですね。」
(社長)
「そうだ、彼らの判断は安心できる。そして、判らないことはすぐに聞いてくる。」
(コンサル)
「社長は、どのようなことを大切にする風土、いわゆる企業風土を持った会社にしたいですか。」
(社長)
「お恥ずかしい、キチンと考えたことがない。本能のまま、経営をしているのかな。」
(コンサル)
「そんなことはありません。普段、社員に言っていることが、大切にしていることです。ただ、まとまっていないだけだと思います。
社員がD社の大切にしていることや判断基準を理解して、自立的に行動するようになると、素晴らしい会社になると思いませんか。」

「そうなりたいものだ。」

「次回は、私が訪問いたします。次回までに、社長と幹部の方で、それぞれにどのような企業風土を作りたいのか、項目を列挙しておいてください。」


“社員一人一人が、会社として大切にしていることや判断基準を理解していること”が、自立的に社員が行動する前提です。D社の場合、輸送サービスの品質を向上させるために、社員がどのように行動するべきか、このことを共有することが大切だと思います。

D社の事例 その2

「いつも 同じことばかり 言っている気がする。」

前回、コンサルタントから 「普段、社長あるいは幹部が社員に対して話をしていること、社員に守ってほしいこと、お客様に対する行動など、社長と幹部が大切にしていることを、社長・幹部が50項目、最低でも30項目列挙するようにしてください。」 と言われたことに対して、書き出したノートを見ながら社長がつぶやいたのです。

(コンサル)
「そうです。社長が大切にしていることは、繰り返し社員に伝えているはずです。ただ、大切にしているということをキチンと意識しないで伝えていると、社員にはなかなか浸透しないのです。」
(社長)
「列挙しただけでは、大切にしていることをボンヤリと認識できるだが、まだ頭の中で整理できていない。」
(コンサル)
「列挙した項目を整理していきましょう。KJ法(注1)と言う整理の仕方をします。
まず、項目をポストイットに転記してください。各人のポストイットを読み合わせしながら、似ている・関連している項目を集約していきます。」

~(中略)~

(コンサル)
「集約した項目の中から、社長が最も大切にしている項目を抽出、または全体をまとめて最も自分が言いたい言葉を作って、表題を作ってください。
その表題の言葉が、社長が醸成したい企業風土を表す言葉になっているはずです。」
(社長)
「なるほど、ボンヤリしていたものが、はっきり見えてきた気がする。」
(コンサル)
「今、作った言葉は、まだまだ仮の言葉です。あとは、社長が本当に納得する言葉に書き換えてください。」「ところで、“モデルの人財は任せて安心”と先日おっしゃっていましたが、任せて安心ということは、社長の大切にしていることを、キチンと守って行動しているということになりませんか。」
(社長)
「確かに、言われる通りだ。だから、任せて安心なのか。」
(コンサル)
「良くも悪くも企業風土は、無形の判断基準となって、社員の行動を規制します。社員の方々が、AさんやBさんのような行動がとれないのは、どのような行動を取ることが正しいのか、判断基準が認識されていないのだと思います。従って、社長が求める企業風土を醸成するためには、“社員としてどのような行動をとるべきか”を明確にすることが第一歩です。」
(社長)
「しかし、一つ一つの良い行動を抽出して、表示することは至難の業だぞ」
(コンサル)
「たしかに、D社において、AさんやBさんの良い行動を抽出して、表示することは至難の業ですし、するべきではありません。
今、注目されている考え方に、コンピテンシーという考え方があります。コンピテンシーとは、成果に結びつく安定して発揮される行動特性と解説されています。この考え方を使って、社長の求める企業風土を実現するために、優先的に保有すべきコンピテンシーを、一覧表をサンプルとしてAさんやBさんの行動を振り返って、抽出してみましょう。」
(社長)
「それならば、できそうだ。まずは、“徹底確認力” “顧客志向性向”・・・、このレベルに合わせて、社員がどのレベルにあるか測定すればよいわけだ。」
(コンサル)
「方向性としては、おっしゃるとおりです。ただ、今まで議論してきたのは、社長や幹部側の見方です。社員側に立てば、能力は発揮したいのだけれども、発揮できない要因があるかもしれません。社員の気持ちをアンケートで聞くべきです。」
(社長)
「そのようなアンケートをとれば、会社に対する文句ばかりがでて収拾がつかなくなるではないか。」
(コンサル)
「社員の声は、文句ではありません。会社への提言です。ただし、社長としては、4つのことを明確にしてフィードバックする覚悟が必要です。一つは、会社としてすぐ対応すること、二つは、会社としてすぐ対応できないけれども、優先順位をつけて対応すること、三つ目は、会社としてできないこと、四つ目は、社員と一緒に解決していきたいこと。この4つをキチンと明確にしてフィードバックしなければ、提言が文句となり、アンケートが悪い結果を生むことになります。」
(社長)
「よし、わかった。アンケートをやろう。」

D社では、社員アンケートを実施することになりました。社員は、どのような提言をしたのでしょうか。次回報告します。

(注1)KJ法:KJは創案者の川喜田二郎氏の頭文字。
相異なった情報等を統合することによって、新しい発想、アイデアを生もうとする方法論。

D社の事例 その3

「社員は、これほど会社のことを考えていたのか」

回収されたアンケートを見た社長の第一声です。
アンケートの質問は、 1. 会社について思うこと 2. 会社に対する要望 の二つに絞り、自由記述としました。 社長は、アンケートに同意したものの、

(社長)
「ほとんどの社員はアンケートの回答を書いてこないか、書いてきても不満ばかり回答する」

だろうと疑心暗鬼だったのです。

アンケートを読み始めた当初、社長の表情は、「あ~ やっぱり」という落胆の表情でしたが、途中から、「へ~」「ホ~」という感嘆詞が入り、「あいつが・・・」「こんなことを考えているヤツがいたのか・・・」といった独り言が増えて、読み終える頃には“我社の社員も捨てたものではない”という新たな発見をした喜びと、“社員のことを何も知らなかった”という反省で、複雑な表情となっていました。

(社長)
「多くは、取るに足らない社員間のトラブルや会社に対する批判や苦情だが、中には、○○すると効率が上がるのではないか、○○をしてもらうと我々が働きやすくなる、といった提言や××のような問題は現場に任せて欲しい、といった主体的な意見があるのには、恥ずかしい話だが驚いた。
このような意見にどのように対応したらよいのか?」
(コンサル)
「社長は取るに足らないとおっしゃるけれども、これも社員の大切な意見です。
どのようなレベルの不満でも、社員が不満足に思っている限り、事故はなくなりません。
社員が、これだけの意見を言ってくるということは、立派なことではないですか。社長は幸せですよ」
(社長)
「先生の言う通りだ。社員を軽視する姿勢は改めよう。
この貴重な意見に対して、どのように回答すればよいのか。」
(コンサル)
「このアンケートへの対応が大切です。アンケートの内容を3つに分けてください。
  1. 会社として、社長として認められないもの
  2. 会社として、社長として対応すべきもの
  3. 社員と一緒に解決したいと思うもの
です。」
(社長)
「内容によって、対応を変えるということか。」
(コンサル)
「そうです。
  1. 認められないものは、理由をキチンと説明して、拒否します。
  2. 対応すべきものは、すぐ対応すべき内容と、すぐには対応できないが時期や条件が揃ったら対応する内容に分けて返答します。
  3. が最も重要で、社員がチームを組んでチームで対応することを提案します。
    その際、前向きな意見を書いた人が、キーマンでしょう。管理部門に、キーマンはいますか。」
(社長)
「います。昼のグループに1名。夜のグループに2名。」
(コンサル)
「彼らは、どのようなことを要望として言っていますか。」
(社長)
「連絡網の運用やマニュアルの改訂、定期点検のやり方など・・・ 自分たちがやった方が早いと思っているのだろう。」
(コンサル)
「では、チームを組んでやってもらいましょうよ。」
(社長)
「チョット待ってください。今、マニュアルといっても、キチンと書かれているものは少ないのです。いや、ないといったほうが正確かもしれない。
提案ですが、私と先生でたたき台を作って、それを修正してもらいましょう。とにかく、私も含めて、キチンとしたマニュアルがどのようなものか、見たこともないのですから。このまま、チームにマニュアルを修正させるとかえって混乱するでしょう。」
(コンサル)
「わかりました、社長の案でいきましょう。最終的には、自分たちでまとめられるように、我々の関与を少しずつ減らしていってはどうですか。チームの中で、社員の意識付け、育成をしていきましょう。また、まとめるにあたっては、昼のグループと夜のグループの良い方を採用するとか、良い方のマニュアルを下地に両方の意見を統合して作成するとか、競争心を掻き立てるような仕組もいりますね。」

このようにして、D社では、社長からアンケートに対する回答を示した上で、プロジェクトチームを立ち上げました。当初、社長のたたき台に対して、自分たちの経験を元にチェック・修正する、ことから始めました。しかし、たたき台の作成以降、アウトプットまでの話し合いは、社員の自主性にまかせることにしたのです。

さて、プロジェクトはどのようになったのでしょうか。次回ご報告します。

D社の事例 その4

「社員がマニュアルをファイリングするようになりました」

マニュアル作りをはじめて、数ヶ月後のことです。コンサルタントが訪問すると、社長が嬉しそうにファイルを見せたのです。

今まで、マニュアルや作業手順書をつくっても、机の上や引出しの肥やしになっていたことを思うと、社員さんの大変な進歩です。コンサルタントの嬉しい瞬間です。このような成果を実感できるようになるために、どのような活動が行われたのでしょうか。

(コンサル)
「御社で最も緊急性のあるマニュアルは何ですか。」
(社長)
「それは、交通事故・車両事故に関するマニュアルだろう。交通事故・車両事故に関するマニュアルからプロジェクトを始めたいものだ。」
(コンサル)
「そのマニュアルを見せていただけますか。」
(社長)
「一応有るには有るのだか、我流で作ったもので、マニュアルと呼べるものかどうか。」
(コンサル)
「このマニュアルは、状況ごとに行うことが羅列してあるだけで、仕事の流れになっていませんね。ベテランの人は、自分の経験でキチンと対応できるでしょうが、新しい人は次に何をすればよいのか、自分の判断でやらざるを得ませんね。そうすると、荷主さんにご迷惑をかけるケースが起こっていませんか。」
(社長)
「今は、ベテラン2人がいるから、大きな問題にはなっていないが、彼らがいなくなるとパニックになるだろう。」
(コンサル)
「まず、交通事故のマニュアルの内容を“事故の経過とともに何をしなければならないか”判るようにしましょう。社長が考えている交通事故への対応活動を、時系列的にお話してもらえませんか。業務のフロー図に致します。」
(社長)
「なるほど、このようにすれば、仕事の流れと作業内容が良く判る。」
(コンサル)
「このフロー図をたたき台として、昼のグループと夜のグループとそれぞれで、自分たちが実際にやっている活動内容や、あるいは本来のあるべき活動内容に基づいて修正してもらいましょう。そして、良い方をベースに、不足していることは他グループの内容を付加する、あるいは、どうしても対立する個所があれば、話し合ってよい回答を見つけましょう。始めるにあたっては、二つ、約束を守ってください。一つは、プロジェクトは、どんなに短い時間でも良いから、全員参加でやること。二つは、必ず簡単なプロジェクト報告を書かせてください。」

~ 1ヵ月後 ~

(コンサル)
「マニュアルは、まとまりましたか。」
(社長)
「いやぁ、今回は参りました。見てください。私の考えより、現場の連中の方が、はるかにきめ細かいことまで考えている。修正だらけですよ。これをパソコンでキチンと書き出して、だれでも見られるところに貼ります。」
(コンサル)
「みなさんのプロジェクトに対する評価はいかがでしたか。」
(社長)
「なかなか前向きでしたね。どうしても出席できない人に対して、リーダーが事前にヒアリングをしていましたよ。感想も、“普段やっていることを整理できた”という前向きなものでした。次は、積み込み、積み降ろしのマニュアルをつくります。もう暫く、たたき台作りに付き合ってください。」

こうしてマニュアル作りがスタートしました。

そして、D社の成果は、マニュアルをつくり、社員がマニュアルを自分たちのものとしてファイリングするだけに留まりませんでした。その成果については、次回ご報告いたします。

D社の事例 その5

「車両事故、製品事故のゼロ記録を更新しています。」

社長が本当に、嬉しそうに報告してこられました。コンサルタントは、耳を疑いました。今までD社は、月平均5軒の車両事故あるいは製品事故を起こしていたのですから。

(社長)
「先生が驚かれるのも無理ありません。私が一番驚いているのですから。」
(コンサル)
「どうされたのですか。」
(社長)
「実は、プロジェクトをはじめて、3ヶ月目ぐらいから製品事故が減るようになり、次いで、交通事故・車両事故も減り、ついに3ヶ月前から事故ゼロになったのです。最初の一月、二月は偶然だろうと思っていました。しかし、3ヶ月連続となると本物ですよ。だから、初めて、先生にも報告したのです」
(コンサル)
「どうして、このような成果に繋がったのでしょう。」
(社長)
「最初の変化は、製品の積み込み、積み降ろしのマニュアルを作ったときに、若い社員から、積み込みのチェック方法の提案があったのです。チーム全体が“そのやり方が良い”ということでマニュアルに記述しました。私も、非常に良い方法だと思い“みんなでドライバーを説得しよう”ということになりました。若いドライバーは、比較的素直に従ってくれましたが、年配のドライバーはなかなか上手くいきません。一つの抵抗勢力です。しかし、若いドライバーの積み込みの事故がなくなったのに、年配のドライバーの事故は減りません。これでは、年配のドライバーも言い訳ができませんね。最後は、私が説得にあたりました。」
(コンサル)
「それから、プロジェクトはどのような動きをしたのですか。次は、車両点検のマニュアルを作りましたね。」
(社長)
「そうです。車両点検のマニュアルを作ったときも、彼らの意見を取り入れて、“タイヤ交換やオイル交換、あるいは部品の交換は危険な状態になる前に行う”としました。私は、コストアップになるから、この文言は入れたくなかったのですが、彼らからの提案ですから、マニュアルに載せることにしました。管理部門の人も、元はドライバーですから、この言葉を採用したことは喜びましたね。たしかに、当初は“もう少し大丈夫だろう”と言うところでタイヤ交換等をするわけですから、コストアップになりました。」
(コンサル)
「しかし、みんなの意識が変わった。」
(社長)
「そうなんです。ドライバーが自ら定期点検を申し出るようになりました。今は、その月中に100%点検が終わっています。また、ドライバーから長持ちするタイヤの提案、配送ルートの提案等が出るようになりました。そして、交通事故・車両事故も減るようになったのです。」
(コンサル)
「そして、交通事故・車両事故、製品事故がゼロになったわけですか。」
(社長)
「そうなんです。板金屋が驚いて、飛んできました。浮気しているのではないかと。このまま推移すると、保険金の支払も大幅にダウンします。当初のコストアップを引いてもお釣がきます。」
(コンサル)
「一番評価しているのは、荷主さんではないですか。」
(社長)
「荷主さんは、正直まだ半信半疑です。しかし、この状態が続けは、必ず認めてもらえると思います。しかし、社員の力は凄いですね。」
(コンサル)
「本当に社員の力というものの凄さを見せていただきましたね。しかし、私は、その凄い力を引出した、社長の力の方がもっと凄いと思います。」

この日、D社を後にするとき、管理部門の人に駅まで送ってもらいました。

(コンサル)
「すごいね。無事故なんだって。」
(社員)
「社長に、あまり外部や社員の前で、言わないようにお願いしているのです。あまり言い過ぎると、かえって、みんなが意識して事故を起こしてしまいますよ。みんな、最初に事故を起こしたら、周りの連中から、何を言われるか判らない、と思っていますから、さりげなく報告してもらって、ちょうどいいんです。」
(コンサル)
「なるほど、ドライバーの気持ちは、君たちが一番知っているんだ。でも、社員の人の意識は、大きく変わったね。」
(社員)
「大きく変わったのは、社長ですね。今までは、すべて俺の言う通りしろ!でしたから。」
(コンサル)
「最近は・・・」
(社員)
「日常のことは、ほとんど任せてもらっているのではないでしょうか。任されているからには、折角良くなってきた、今のいい雰囲気が定着するようにしないといけませんね。」

※ このD社は、今も交通事故・車両事故・製品事故ゼロを続けています。

D社の事例 その6

営業マンが目的意識を持って活動するようになってきました

営業プロセスマネジメントの導入をはじめてから数ヵ月後、社長からの報告です。営業プロセスのメニューも増え、毎週、営業ミーティングを行い、営業プロセスの進捗度を評価するようになっていたのです。どのような営業ミーティングをしているのか、社長といっしょに参加してみました。リーダーと営業マンの会話です。

(リーダー)
「Yさんの今週の活動内容を報告してください」
(Yさん)
「案件1は、今週見積書を提出して、先方で内部検討になっています。案件2は、・・・。以上が、先週の活動です。」
(リーダー)
「今週における、案件1の営業プロセスの達成レベルは、どのレベルでしたか。」
(Yさん)
「見積書を提出して、受注を頂くことでした。」
(リーダー)
「受注を頂くという目標を実現するために、どのような準備をしましたか。」
(Yさん)
「受注するために、A案・B案・C案の三パターンの見積書を作成しました。標準プロセスの活動内容に、“比較検討ができる見積書の提出”とありますので・・・」
(リーダー)
「それで、A案・B案・C案を準備したのですね。 では、プレゼンテーションはどのようにされたのでしょうか。」
(Yさん)
「A案・B案・C案の特徴、お客様におけるメリット・デメリットを説明しました。」
(リーダー)
「その他 受注するために工夫したことはありますか。」
(Yさん)
「いいえ、特には考えませんでした。工夫が足りなかったから、受注できなかったのでしょうか?」
(リーダー)
「その点をいっしょに考えてみましょう。 まず、Yさんはなぜ受注と言う目標が達成されなかったと思いますか。なぜ、持ち帰り検討という結果になってしまったと想いますか」
(メンバー)
「3つの提案書を作成したことは、非常に評価が高かったと思います。 ただ、プレゼンテーションについては、不十分だったと思います。」
(リーダー)
「どのような点が不十分だと思いますか。」

<以下 省略>

(コンサル)
「毎週、このようなミーティングを行っているのですね。」
(社長)
「見ていただいたように、グループミーティングです。時間は一人あたり30分程度。営業プロセスに基づいて、案件ごとの進捗状況をチェックしています。そして、営業マンには、次週の営業プロセスの達成目標を発表させています。交代でロールプレイングもやっています。」
(コンサル)
「リーダーのZさんの質問がいいですね。 考えさせる質問をしています。はい・いいえで答えられない、オープンな質問しているのがいいですね。 部下育成には、考える習慣をつけさせることが大切です。」
(社長)
「Zさんのチームは成績が上昇しています。それは、Zさんの質問の仕方が良いわけですね。それでは、リーダーに他のリーダーのミーティングを見学するようにさせよう。そこで他のリーダーの良さを吸収すればよいわけだ。」
(コンサル)
「答えをすぐに言わずにリーダーにも考えさせようと言うことですね。」
(社長)
「良い考えと思いませんか。」
(コンサル)
「ぜひ、やりましょう。」

このようにして、D社ではミーティングプロセスまで共有する取り組みが始まったのです。

次回は、営業マンの体験情報を共有化して、営業プロセスをレベルアップする取り組みについて、報告します。

D社の事例 その7

新しい営業プロセスにチャレンジしていない。

D社 社長の苛立ちです。営業プロセスの導入・活用によって、営業部門の体質強化が進み、営業部門の成果が認められるようになってきました。しかし、社長には、営業部門は今の成果に自己満足していると写っているようです。

(コンサル)
「社長は、営業マンに対して、“標準の営業プロセスにこだわらず、新しい営業プロセスにチャレンジするように”日々奨励しています。会社として、チャレンジした営業プロセスの結果を、どのように把握していますか。」
(社長)
「チャレンジした結果は、ミーティングで発表している。」
(コンサル)
「ミーティングで発表された後、どのように活用していますか。」
(社長)
「発表して、そこで満足しているところが私には不満だ。 折角チャレンジしても、営業プロセスの変革や新しい営業プロセスの創造に結びつかない。もう一度、インタビューからやり直さなければならないのだろうか。それでは進歩がないような気がする。」
(コンサル)
「おっしゃるとおりです。“チャレンジを成果に結びつける仕組”が必要です。」
(社長)
「“チャレンジを成果に結びつける”ということは、どういうことなのか、よくわからない。詳しく教えて欲しい。」
(コンサル)
「チャレンジすると、チャレンジが成功する場合もあります、また、失敗する場合もあります。 ここで大切なことは、失敗に対する考え方です。」
(社長)
「失敗に対する考え方とは、どういうことか。」
(コンサル)
「チャレンジに対しては、失敗の概念がないと言うことです。チャレンジして成果がでなかった場合、社長はどのような対応をしていますか。例えば、X氏が新しい案件に対して、今までと違ったアプローチをして受注に失敗(失注)した場合です。」
(社長)
「なぜ、わざわざリスクを負って、新しいアプローチをしたのか、その意図を聞きたいね。そして、失注してしまったのだから、どうして失注したのか、原因を追求するだろうな。」
(コンサル)
「そこが問題です。社長は、“常々新しいチャレンジをしなさい”と方針を出しています。一方で、“わざわざリスクを負って・・・”という発言は矛盾しませんか。チャレンジはリスクを伴うものなのです。」
(社長)
「それでは、どのように対応したらよいのか。」
(コンサル)
「そのやり方では、成果に結びつかなかったことが判った訳ですから、それも成功なのです。まず、社長の方針通り、チャレンジしているわけですから、チャレンジしたことを認めることが大切です。チャレンジしたことを叱って、原因追求を求めると、営業マンは、どのように感じるでしょうか。」
(社長)
「私の方針と行動が違う・・・。そのように感じるだろうな。なるほど、それで、営業マンはダイナミックなチャレンジをしないのか。 まず、チャレンジを褒めてから、チャレンジした理由を聴く、原因を分析するように指示をする、ということですね。」
(コンサル)
「そうです。チャレンジする風土を創ることが大切なのです。 ただし、チャレンジしたプロセスおよび結果に対して、成果に結びつかなかった原因を分析することは徹底するべきです。それは、成功事例でも、同様です。なぜ、成功したのか、なぜ、失敗したのか、原因を分析することが重要です。 そして、チャレンジしたプロセスおよび結果を蓄積、共有、活用することによって、新しい我社独自の営業プロセスが創造できます。その仕組を創ることが、D社さんの営業力強化に繋がります。」

このようにして、D社の社長は、営業マンがダイナミックなチャレンジに取り組まない、あるいは新しい営業プロセスが創造されない原因が、自分の「方針と行動の不一致」にあることに気付かれました。そして、成功事例、失敗事例を蓄積、共有、活用する取り組みが行われるようになりました。
D社では、自社の小さな成功事例から、営業プロセスマネジメント、さらにチャレンジを成果に結びつける仕組を、構築したのでした。

みなさんの会社でも、成功事例が眠っていないでしょうか。