コンサルティング物語

コンサルティング物語
「顧客価値の創造」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

我が社はなぜお客様に選ばれているのか

C社の事例 その1

「我が社はなぜお客様から選ばれているのですか」

みなさんは、この質問にどのように答えるでしょうか。

「信頼されている」から 「新商品の開発力がある」から いろいろな答が返ってきます。

では、もう一つ質問を加えましょう。

競合他社は「信頼されていない」のでしょうか。「新商品の開発をしていない」のでしょうか。なぜ、「信頼されている」から、「新商品の開発力がある」から、お客様から選ばれていると断言できるのでしょうか。我が社に何か特別な仕組や風土があるのでしょうか。

ここまで質問すると、多くの会社では、「なぜお客様から選ばれているのか」ということを真剣に考えたことがないなぁ、とお手上げの状態です。

みなさんはいかがでしょうか。「我が社はなぜお客様から選ばれているのか」を真剣に考えていないことは、偽りのない言葉でしょうが、見方を変えれば経営者の怠慢です。

立場を変えて考えてみましょう。

みなさんの会社の近所に、焼き鳥屋さんが2軒並んでいたとしましょう。 みなさんは、お客様です。どのような店の方に入りますか。

以下は、ある会社での回答の一部です。

  • 安い店
  • メニューの豊富な店
  • 食べたい料理やお酒のある店
  • 料理を待たさない店
  • 雰囲気の良い店
  • 活気のある店
  • 常連となっている店
  • 可愛い娘のいる店 ・・・

もう分かって頂けたと思います。繁盛している焼き鳥屋さんは、何らかの基準でお客様から選ばれているのです。

我が社も同じでしょう。

今の売上、利益を計上しているのは、お客様が何らかの基準で我が社を選んで頂いているからなのです。選ばれている理由を正しく認識していないとしたら、みなさんの会社は多くの機会損失をしているかもしれません。

今回のコンサルティング物語では、「お客様から選ばれている理由」を「我が社の強み」として正しく認識し、強化する物語を取り上げます。

C社の事例 その2

内装仕上げ業のC社は、建設不況の煽りを受けて、業績が下降線を辿っていました。そこで、C社の経営体質を革新するために、経営コンサルタントが呼ばれました。

「御社はなぜ顧客から選ばれているのでしょうか」

C社の経営幹部は、コンサルタントの質問に、すぐに答えを見つけることができません。

(社長)
「選ばれている理由がないから、売上が低迷しているのではないのか」

社長が当惑して、聞き返しました。

(コンサル)
「そのようなことは、ありません。今期の売上高の予測はいくらですか。」
(社長)
「80億円となっている。5期連続して、減収減益だ。」
(コンサル)
「80億円も売上があるではないですか。80億円の売上は、数多くの競合他社との比較で、我が社を選んで頂いた顧客があるから実現できたのでしょう。我が社はまだまだ選ばれているのです。もう一度、お聞きしますが、顧客が我が社を選んでいる理由は何だと思いますか。」
(社長)
「選んでいる理由と聞かれても、売上は低迷している」
(コンサル)
「その通りです。売上が低迷しているのは、今まで、我が社を選んできた理由に対して、魅力を感じなくなった顧客が多くなったのです。選んできた理由をレベルアップすれば、顧客との関係を強化できるのです」

そこで、コンサルタントは80億円の売上を頂いている既存顧客に焦点を絞って、「我が社が選ばれている理由」を検討することからはじめました(取引がなくなった、顧客に対しては後ほど検討すると断った上で、議論を進めました)。

当初、“選ばれている理由”として抽出された項目は、 「信頼関係がある」「施工技術がある」「顧客の予算に柔軟に対応している」「老舗である」 4つの項目でした。

そこで、コンサルタントはさらに質問を続けました。

(コンサル)
「なぜ、『信頼関係がある』が選ばれている理由だと言えるのですか」
(社長)
「顧客から店舗作りの相談がある。顧客に競合他社がアプローチしてきても、競合他社の条件を教えてくれる」・・・
(コンサル)
「それは良い関係構築ができていますね。しかし、『信頼関係ができている』ことは、我が社が顧客に対して、様々な活動を行ってきた結果です。また、競合他社も良い関係を作ろうと活動しているはずです。我が社の対応は、競合他社の対応とどこが違うのでしょうか。あるいは、なぜ店舗作りの相談を頂けるのでしょうか」
  • 他社と違うのは、
    「営業マンが頻繁に繁盛店舗を見に行って、新しいトレンド情報を提供している」
    「営業マンは時間に縛られることなく、相手の時間を優先している」
    「クレームは真っ先に訪問している(クレームから逃げない)」など
  • 相談を受けるのは、
    「営業マンは什器や建材のことを良く知っている」
    「店舗開発のコストの内容を良く知っている」など
  • その背景として
    「自己研鑽意欲が高い」
    「長年のノウハウが蓄積されている」
    「店舗開発について相談できる外部スタッフを持っている」
    「外部スタッフは我が社のOBでロイヤリティが高い」 など

次々とでてくる「選ばれている理由(C社の強み)」に、コンサルタントは 「これだけの強みがあるのに、なぜ顧客が離れていくのだろうか」 と首をかしげてしまったのです。

しかし、コンサルタントの次の質問に対する答えには、もっと驚かされることになるのです。

C社は、なぜ強みを活かしきれないのでしょうか。次回、検討いたします。

C社の事例 その3

「『自社の強み』をどのようにして強化してきましたか」

「我が社はなぜ顧客から選ばれているのでしょうか」というコンサルタントの質問に対して、 当初は「売上が上がらないのに、何を言い出すのか」と警戒心を持っていた経営幹部が、発言を少しずつ重ねるうちに、「我が社にも強みがあるのだ」と自信の表情を見せるようになりました。

(コンサル)
「このような強みをどのようにして強化してきましたか」
(コンサル)
「このような強みを発揮する組織的な仕組はどのようになっていますか」

経営幹部は、顔を見合わせました。

(幹部)
「特に、意識をしていません。」「そのような仕組みはありません」
(コンサル)
「すると、個人個人が自分のスキルで信頼関係を作っているのですか」

今度は、コンサルタントが驚く番です。

(コンサル)
「今まで議論してきた強みの蓄積や発揮は、現状ではどのような形で行われているのですか」
(幹部)
「営業や設計や施工のメンバーは成果主義で処遇していますので、個人個人が自分の能力を磨いています。 能力のある人材は独立していきます(独立して能力を発揮しています)。 若くて能力の不足している営業マンは、OBのスタッフを活用して、顧客に対応しています。」

など 次々と現状についての意見が出されました。

(コンサル)
「すると、『C社には組織としてのノウハウが蓄積されていない』ということになりませんか」
(社長)
「今までは、『C社学校』とインフォーマルに言われていたように、OBは我が社で実力をつけて、卒業していったのです。しかし、OBのネットワークは非常に強く、恩返しの気持ちで、我が社の後輩を育てていった・・・。」

そこまで話して、社長は「ハッ」と気付いたようです。一言、

(社長)
「OBのネットワークが弱くなっている!」

さらに暫く議論した後、コンサルタントは認識の確認を行うことにしました。

(コンサル)
「経営幹部の方々の認識は、『C社グループとして、ノウハウの蓄積や後輩を育成する仕組みを持っていた。また、後輩は独立することを夢見て、切磋琢磨していった。』ということですか? OBのネットワークが弱くなってきていると言うことは、我が社の強みが機能しなくなってきているということでしょうか。社長の認識が正しいかどうか、確認する必要があります。」

そこで、コンサルタントは次のような提案を行いました。

(コンサル)
「今までの議論が正しいかどうか、経営幹部のみなさんが顧客の声で確認してください。
取引のある顧客については、
 1. 顧客に対してC社がお役に立てている内容
 2. C社に対する期待、不満
を聞きましょう。
また、取引が中断している顧客については、
 1. 取引をして頂けなくなった理由、不満
を聞かなければなりません。」

このようにして、経営幹部自らが顧客の声を聞くことになりました。
C社では、(普段、あまり意識していなかった)コア・コンピタンスともいうべき仕組みに、歪が起こっているようです。

顧客の反応はどうだったのでしょうか。次回に報告いたします。

C社の事例 その4

「こんなに期待されていたのに、気がつかなかった」

「コンサルタントの検討会における、社長の悔恨の第一声です。

社長の手元には、経営幹部によってヒアリングされた、顧客の声のメモが、直筆のまま置かれていました。

しかも、記述されている内容は、 「見積りが高くて、とても発注できない」「営業の対応が時々でバラバラ。どれが本当のC社の姿勢なのか、信頼できない」「担当者によって、施工能力に差がありすぎる」等々 と言った非常に厳しいものばかりでした。

(コンサル)
「顧客の目は厳しいですね。」
(社長)
「正直、最初は腹が立って仕方がなかった。なんで、そこまで言われなければならないのか、と。他の幹部のメンバーも同じだったらしい。特に、取引のなくなった顧客では、全く相手にされなかったところもあった。
ところが、ある取引のなくなった顧客で、こんなことを言われた。『社長は、なぜ我が社が取引をしなくなったか、ご存知でしたか。』 “それを聞かせてもらいたいと訪問させて頂いています。” 『だから、ダメなんですよ。あれだけのクレームを起こしておいて、社長の耳に入っていないのだから。どうせ、自分たちの間で、コストだけを処理して、辻褄をあわせたのだろう。』 私は、ビックリして理由を聞きました。そこで判ったことは、私は顧客の声だけでなく、社員の声も聞いていなかった。」
(コンサル)
「それで、どうされましたか。」
(社長)
「もう一度、初心に戻って、顧客の声を聞くことにしました。 すると、顧客の苦情が、我が社への期待に聞こえてきたのです。苦情を直せばよいのだと。」
(コンサル)
「それで、顧客の声が、これだけ集まったわけですね。」
(社長)
「そう、最初は、聞き流していたことも、思い出しながらメモにまとめた。幹部にも同じようにしてもらった。意図は通じていると思う。」
(コンサル)
「他の幹部の方々は、いかがでしたか。」

コンサルタントが他の幹部の様子を聞くと、他の幹部も同じような経験があったようです。

(社長)
「要するに、我が社は一人親方の集合体だったようだ。評価だけで縛っていて、組織としての仕組が何もなかった。だから、顧客に選ばれなくなったんだ。これから、顧客から選ばれるために、顧客の苦情を一つ一つ組織として直していく。それで良いですね。」
(コンサル)
「基本的には、賛成です。
しかし、組織としての仕組が何もなかった、という言葉には、賛成できません。C社には、社員が独立していける暗黙の仕組がありました。また、独立したOBが、現在の社員を育成する仕組みもありました。そして、独立したOBがC社のために最善の努力をする求心力もあったのです。C社グループとして、顧客に対応する仕組がキチンとあったのです。ただ、それが暗黙の仕組であったために歪が起こっているのは事実でしょう。自社の強みを簡単に否定すべきではありません。仕組が生きている証拠に、優秀な技術者が残っているではないですか。」
(社長)
「暗黙の仕組を立て直せと言うのか。」
(コンサル)
「その答を出す前に、もう一つ、提案をさせてください。経営幹部の方々は、我が社が顧客から選ばれている理由は、C社のOBを中心とする外部のネットワークだとおっしゃいました。ネットワークを構成している方々は、C社に対して、どのような想いを描いているのでしょうか。OBの声、協力会社の声を聞いてみる必要があるのではないですか。」

ネットワークを構成している方々の反応は、どうだったのでしょうか。次回報告いたします。

C社の事例 その5

「OBや協力会社の心が離れていっている」

(社長)
「心、我が社にあらずだ!」

社長の報告は続きます。

(社長)
「最初は、良いことばかりしかいってくれなかった。」
(コンサル)
「それは、そうでしょう。悪いことを言って取引を切られたら、協力会社としては、たまりませんからね。それで、どうされました。」
(社長)
「こちらから、いくつか悪い事例を提示して、このようなことが起こっていないか、仕事上の不都合がないか、誠心誠意、聞いてみました。 私の意図を理解してくれたのでしょう。今度は、出るわ、出るわ。最初は耳が痛くなってきました。 そのうち、楽しくなってきましたね。自分の知らないことをいっぱい聞かされて・・・。心配しないでください、ヤケを起こしたのではありませんから。」
(コンサル)
「どのようなことを言われましたか。」
(社長)
「言われるままにメモをしてきました。代表的なことばをあげると、
“C社の社員は、我々を仲間だと思っていない。単なる下請だと思っている。”
“自分の技術を磨くよりも、我々にすべてマル投げしてくる。” “そのクセ、施主からクレームがあると、我々に泣きついてくる。”
“段取りができないくせに、偉そうに指示ばかりしている。”
“現場の監督者としての役割を果たしていない。施主さんに対するイエスマン”
“コスト削減だけをいってくる。” “どのようにしたらコストが下がるか、一緒に考えようともしない。”
“徹夜の現場でも、いつの間にか寝てしまっている。”
“今までの恩があるから、C社の仕事を引き受けていたが、最近はC社を断わって、他社の仕事をしている。”・・・
OBの方々から、涙ながらに訴えられたときには、返す言葉がなかった。」
(コンサル)
「社長は、なぜ、このような状況になったと思われますか。」
(社長)
「・・・・」
(コンサル)
「社員さんは、我が社に対してどのように思っていらっしゃるのでしょうか。」
(社長)
「社員の意見も聞くのか。」
(コンサル)
「当たり前でしょう。社長は、前回の検討会で、社員の声も聞いていなかったとおっしゃっていたではないですか。」
(社長)
「それは、そうだが・・・」
(コンサル)
「前回の言葉は、口から出任せですか。 本当は、社員の声を聞く気がないのですね。」
(社長)
「そんなことはない。」
(コンサル)
「では、やりましょう。」
(社長)
「私が行っても、社員はすぐに口を開かないのではないか。」
(コンサル)
「社員の思いが社長に伝わらない風土に大きな問題がありそうですね。 しかし、今は、何とか社員の声を聞く工夫をしましょう。 “あなたは、C社で何をしたいですか?C社に何を望んでいますか?” という質問に対する答えを無記名で回収しましょう。その上で、キーワードを抽出して、社員の声を分析しましょう。」

社員は、C社に対して、どのような思いを持っていたのでしょうか。次回ご報告します。

C社の事例 その6

「社員は夢を失っている」

「あなたは、C社で何をしたいですか?」「C社に何を望んでいますか?」というテーマで自由に記述されたアンケートは、直接コンサルタントに送られ、コンサルタントが集計することになりました。コンサルタントは、アンケートからキーワードを抽出して、体系化した結果をC社の役員会で報告しました。

コンサルタントの報告では、 【あなたは、C社で何をしたいですか?】

(コンサル)
「“知識、技術を習得する”というキーワードは、高い水準で抽出されています。 一方“自分の作品を作る” “顧客の夢を実現する”といった、今までC社を支えてきた、独立志向の強い人材が持っているキーワードは、低い水準でしか、抽出されていません。 この結果は、知識、技術に対する欲求は高いものの、発揮する場を見失っているのではないでしょうか。」

【C社に何を望んでいますか?】

(コンサル)
「“正当な評価”というキーワードが最も高く、次いで"社長とのコミュニケーション"のキーワードが群を抜いて抽出されています。 特に、正当な評価については、“利益だけで、作品の品質を認めてもらえない” “技術力のない上司に評価されたくない”といった、C社の強みと認識されてきたことが、評価されなくなっていることへの不満と不安が記述されています。 その不満と不安が、社長とのコミュニケーションの中で、“社長は、作品優先なのか、コスト優先なのか、明確にして欲しい” “現場の意見を聞いて欲しい”というコメントに現れています。」

このような結果が、示されたのです。 社長の「社員が夢を失っている」という言葉に、経営幹部の思いが凝縮されているようです。

報告の後、コンサルタントは言いました。

(コンサル)
「我々経営幹部は、“我が社がお客様から選ばれている理由”と、全く違うことを社員や外部スタッフに求めていたようです。利益志向だけに走ってきたのではないですか。 だから、社員が夢を失い、外部スタッフの心が離れ、顧客との信頼関係を無くして行ったのです。 ここで、(顧客の声を聞かれた後、社長がおっしゃったように)顧客の不満だけを無条件に受け入れると、御社は崩壊してしまいます。」
(社長)
「しかし、利益は必要だ。」
(コンサル)
「おっしゃる通りです。利益がなければ企業は存続できません。しかし、顧客から選ばれてこそ、利益が確保できるのです。」
(社長)
「顧客から選ばれる仕組みを作れ、と言うのか。」
(コンサル)
「そうです。そのためには、C社の方向性が明確でなければなりません。 そこで、提案です。まず、
 1. 我が社が選ばれている仕組みが、今後とも選ばれる理由となりえるのか。強化の方向性は・・・
 2. もし、選ばれる理由となりえないのであれば、新しい選ばれる仕組みを構築しなければなりません。
どちらも不退転の決意が必要です。」

C社では、経営幹部の行動力によって、「我が社が顧客から選ばれている理由」「我が社が顧客から選ばれなくなった理由」を追求していった結果、C社の本質的な問題“選ばれている理由”と“現実の指示が違う”ことに気付かれました。

みなさんの会社では、業績の背景である、「我が社が顧客から選ばれている理由」「我が社が顧客から選ばれなくなった理由」を把握されているでしょうか・・・。