コンサルティング物語

コンサルティング物語
「顧客価値の創造」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

価格決定が経営体質を革新する -価格が価値を創造する-

その1

~価格を上げられない~

創業100年を超える I社は、地域の食材を活かした和菓子を製造する、老舗の和菓子製造販売会社でした。
I社のJ社長は、弊社が主催したセミナー「激変する経営環境を活かせる経営者と活かせない経営者」に参加、終了後に名刺交換をさせていただいたご縁で、弊社に相談に来られたのです。

(J社長)
弊社では、地域の食材を活かした和菓子を製造販売しています。販売は直営店と地域のスーパーや小売店にも卸しています。近年、原材料に加えて、エネルギーコストが上昇して、経営は危機的な状況にあります。私は、復活のヒントがないかと、藁にも縋る思いで、御社のセミナーに参加したのです。
その中で、先生の「インフレの時代においては、企業が主体的に決めた価格が品質を決めるのだ」という主張に、衝撃を受けました。今まで、私は「市場に受け入れてもらえる価格」を考えて、品質を追究してきたのですが、全く逆の主張を聴いて、一度、話だけでも聴いてもらいたいと、事務所に訪問した次第です。

J社長の相談は、下記のような内容でした。
 〇創業以来、お客様が笑顔になる品質の商品を、リーズナブルな価格で販売することを大切にしてきた。
 〇コロナの影響、ウクライナ戦争の影響、円安の影響があって、加工用原材料、エネルギー価格が急騰している。
 〇一方で、地域の食材の価格は据え置きをお願いしているが、生産者のことを考えると、据え置きのお願いも限界にきている。
 〇このような状況の中で、収益性の悪化が続いており、現在の価格を維持することができなくなっている。
 〇値上げをしなければ、会社が存続できないことは理解しているが、価格の改定によって販売数量の減少につながるのではないかと考えると、値上げをなかなか決断できない。
 〇一方で、社員の生活のことを考えると、会社を潰すわけにはいかない。どうすればよいか・・・、八方ふさがりの状況にあった。
 〇今回、御社のセミナーに参加して、非常に考えさせられるものがあった。
  ・私自身、市場に受け入れてもらえる価格の呪縛に取りつかれていたのではないか。
  ・本来、生産者は、価格を自由に決められる立場ではないのか。
  ・自社の商品の価格について、原点に戻って、考え直すべきではないか。
  ・では、具体的にどのように考えて、価格を決めるべきなのか。

(J社長)
セミナーを聴いて、「市場に受け入れてもらえる価格」の呪縛にとらわれていたのではないか、と考えるようになりました。当然、現在の業績を考えると、「呪縛にとらわれている」といって、何もしないでいることが許される訳がありません。「価値に見合う価格をつける、価格に見合う価値を創造する」とは、具体的に、どのように考えて、価格を決めればよいのでしょうか。
(コンサルA)
J社長は先ほど、「原価が高騰している、社員の給与を上げたい、だから価格を上げないといけない。価格を上げないと会社を維持できない」と、言われました。
(J社長)
はい、会社を潰すわけにはいかない と考えています。
(コンサルA)
J社長の「価格を上げないと会社が維持できない」という切実な想いは、非常によく理解できます。一方で、価格を上げると「直営店のお客様が離れていくのではないか」「得意先のスーパーや小売店から、I社の商品が棚落ちするのではないか」という不安も正直にお話いただきました。
J社長のお話の中で、私が気になるのは、「原価が高騰している」「社員の給与を上げたい」「会社を潰すわけにはいかない」という、価格を上げないといけない理由が、I社都合の理由ばかりに聞こえる ということです。
(J社長)
それは、どういうことでしょうか。
(コンサルA)
価格を上げる理由に、お客様にとってのメリットが見えないということです。
(コンサルB)
価格を上げるということは、お客様に負担を強いることです。I社が値上げをした場合、「お客様の負担に対する価値」を提供できなければ、お客様は、I社の商品から離れていくのではないでしょうか。特に、和菓子の業界は、競合他社も多く存在します。お客様は、シビアに競合他社の商品と比較して、購買行動を変えると考えられます。J社長が持っている不安の背景には、値上げした新しい価格に対して、お客様が納得する[お客様価値]を見出せないことにあるのではないですか。
(J社長)
おっしゃる通りです。今まで、価格を上げることに対する不安ばかりに目が行って、不安の背景を考えてもいませんでした。私は、「市場に受け入れてもらえる価格」の呪縛にとらわれていることは、頭では理解したのですが、「なぜ、呪縛にとらわれているのか」わかりませんでした。だから、呪縛を解く鍵を見つけられずにいたのです。私の悩みの本質が理解できました。ありがとうございます。
そこで、ご相談ですが、一度、私の会社に来ていただき、新しい価格に対する[お客様価値]を一緒に考えてもらえませんか。
(コンサルA)
ご訪問することは了解です。ただ、ご訪問する前に、整理しておいてほしいことが3つあります。それは、
①先ほどのヒアリングの中で、「お客様が笑顔になる品質の商品を、リーズナブルな価格で販売することを大切にしている」と言われましたが、「お客様が笑顔になる品質」とは、どのような品質のことなのでしょうか。また、リーズナブルな価格と言われましたが、「リーズナブルな価格」とは、どのような価格なのでしょうか、何か説明できるものがありますか。次に、
②直営店のお客様には、I社に買いに来ていただいている理由、スーパー・小売店には、I社と取引しているメリットについて、聴いてきてください。また、要望についても聴いてきてください。最後に、
③I社の過去30年間の歴史について、整理しておいてください。
(J社長)
わかりました。やってみます。

J社長に宿題をお願いしたうえで、I社を訪問することになりました。宿題の結果および訪問した内容については、次回ご報告します。