コンサルティング物語

コンサルティング物語
「価値観の醸成」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

成功事例は自社にある

E社の事例 その1

「どうしたら営業力を強化できるのでしょうか」

E社の社長からのご相談です。

E社は、販売促進企画会社。 もともとは、販売促進用の小物を販売していた企業でしたが、販売促進用の小物販売では、価格競争に巻き込まれ、収益性が悪化してきたことから、上流の販売促進企画分野に事業領域をシフトしようとしていました。

(コンサル)
「営業マンは、どのような営業活動をされているのでしょうか。」
(社長)
「いつまでたっても、昔の営業スタイルを変更しようとしない。販売促進企画を提案するように言い続けているのだが、お客様から『○○商品に添付する小物がないか』と言われると、すぐに小物を捜しに没頭する。そして、お客様の予算に聞き分けが良く、すぐに価格を合わせてしまう。これでは、利益率が下がるばかりだ。」
(コンサル)
「お客様の要望に応えているのであれば、売上高は増えているのではないですか。」
(社長)
「とんでもない。どのメーカーも卸も小売も、販売促進経費を絞っている。販売促進の回数を減らす訳にいかないから、1回あたりの費用を抑えようとする。一番の影響は、我々のような小物にくるのです。」
(コンサル)
「販売促進企画の予算も減っているのではないですか。」
(社長)
「いいえ。販売促進の回数は減っていない、いや、業界によっては増えています。そして、販売促進の成果を重視しますから、良い企画にはお金を使うのですよ。」
(コンサル)
「そこで、販売促進企画に事業領域をシフトしようとされているのですか。」
(社長)
「そうです。販売促進企画から関わることが、コスト競争に巻き込まれない道なのです。」
(コンサル)
「社長は、営業プロセスという言葉をご存知ですか。」
(社長)
「初めて聞く言葉だが、営業力強化と関係があるのですか。」
(コンサル)
「そうです。営業活動には、必ず目的があります。最も、重要な目的は、御社の場合、販売促進企画の受注でしょう。
しかし、初回訪問から突然受注できるということは、まず難しいのではないでしょうか。一般的に言うと、受注までには、いくつかの段階を経なければならないのです。御社においても、例外ではないと思います。そして、営業力の強化のポイントは、この段階をいかに効果的効率的に駆け上がるかなのです。営業目的(例えば受注)を実現する段階一つ一つを営業プロセスと呼び、個々の段階を効果的効率的に駆け上がるように、マネジメントすることを『営業プロセスマネジメント』と呼ぶのです。
優秀な営業マンは、自分の営業プロセスを持ち、無意識のうちに営業プロセスマネジメントを行っているのです。」
(社長)
「我社には、優秀な営業マンはいないけれど、営業プロセスマネジメントを導入することは可能ですか。」
(コンサル)
「可能です。優秀な営業マンはいなくても、成功事例はあるでしょう。成功事例をヒアリングすることによって、営業プロセスの概念や営業プロセスの重要性を理解してもらえると思います。」

このようにして、E社ではまず、社長と営業部長に対して、営業プロセスのレクチャーを行った後、営業プロセスを抽出するプロジェクトの内容を検討しました。

どのようなプロジェクトが発足したのか、次回ご報告いたします。

E社の事例 その2

我社の営業マンだけで大丈夫か?

社長、営業部長に対して、営業プロセスマネジメントのレクチャーを行い、プロジェクトメンバーの選定を依頼した時です。社長から、不安の声があがりました。

(コンサル)
「大丈夫ではありません。企画スタッフと仕入れの方を参加させてください。」
(社長)
「おい おい わしの言ったのは、我社の社員・我社の事例だけで大丈夫か と聴いたのだぞ。我社の営業マンは未熟だし、外部の優秀な営業マンの行動をヒアリングするとか 他の方法を考えた方が良いのではないのか。」
(コンサル)
「茶化して すみません。社長のおっしゃりたいことは、良く判っているつもりです。
御社の営業マンのレベル、営業活動の内容を拝聴しましたが、いろいろと成功事例を持っていると思います。そうでないと今の売上利益金額は実現できていません。大丈夫です、まかせてください。ただ、企画スタッフと仕入れの方を参加させてほしい と言ったのは本音です。」
(社長)
「企画スタッフは、判るが営業のことに なぜ仕入れが必要なのか。」
(コンサル)
「企画スタッフや仕入れの方に、お客様のことを良くわかってほしいからです。レクチャーしましたように、受注は、お客様による“満足への期待”や“満足の積み重ね”によって、実現されます。そして、お客様に満足して頂くのは、営業の仕事だけではないからです。お客様の立場で考えた販売促進企画メニューの開発、お客様の要望を先取りしたメーカー情報の提供・・・すべて、お客様満足に大切です。」
(社長)
「では、商品管理も参加させよう。商品の在庫管理、入出庫を担当しているのだから。」
(コンサル)
「それは、良い考えです。ぜひ、代表者を選定してください。
プロジェクトメンバーに対しても、レクチャーが必要です。第一回目のプロジェクトの時間は、皆さんの集まれる時間で決めてください。そのあとの日程は、メンバーで決めましょう。」
(社長)
「わしや営業部長も参加していいのか。」
(コンサル)
「もちろんです。ぜひ、参加してください。ただし、サポーターとして…です。」
(社長)
「サポーターとはどういうことか。」
(コンサル)
「自ら率先して、発言してはいけないということです。」
(社長)
「プロジェクトに参加して、発言してはいけないと言うのであれば、参加する意味がないではないか。」
(コンサル)
「社長にとって、発言してはいけないというのは、拷問に等しいでしょうね。もちろん、拷問を受けていただくつもりはありません。 要は、プロジェクトメンバーの意見が行き詰まったり、対立したり、堂々巡りを始めたら、誘い水をかける等の支援をしてあげて欲しいのです。」
(社長)
「自分の意見を言えないのは、やっぱり拷問だ。」
(コンサル)
「社員の育成のためです。お客様のためです。よろしくお願いします。 私も、最初の数回は、インタビューの見本を見せて、営業プロセスが抽出できるように、プロジェクトをリードしますが、あとは、インタビューも営業プロセスの抽出も、プロジェクトリーダーにお任せして、サポーターとして支援するつもりです。」
(社長)
「判った、とにかく、社員を信じて、やってみよう。」

社長は、まだ十分に納得していないようでしたが、 「やってみなければ判らない」 と割り切られました。そして、メンバーを選定して、プロジェクトをスタートさせることになりました。

今回のプロジェクトのポイントは、二つありました。

一つは、「お客様に満足を提供するために、営業プロセスを構築する」というコンセプトのもと、組織横断的にメンバーが選定されたこと、そして、「社員に自ら考え、創造する喜び、そして成功する喜びを体得してもらう」という社員育成の位置付けのもと、社長・営業部長がサポーターに徹したことです。

このあとE社では、営業マンに対して、営業プロセスマネジメントのレクチャーを行い、さらに、選任されたプロジェクトメンバーに対して、営業プロセスの構築とプロジェクトの役割についてのレクチャーが行なわれました。そして、成功事例のヒアリングが行われるようになったのです。

ヒアリングの様子については、次回ご報告いたします。

E社の事例 その3

受注までの営業活動について、時間を追って話していただけますか

コンサルタントは、中堅食品メーカーY社から「秋の新商品販売促進キャンペーン」を受注した営業マンX氏に対して、インタビューをはじめました。
インタビューをはじめるにあたって、プロジェクトのメンバーに対して、インタビューで聞き取るポイントとして、
1. 受注に向けて、どのような営業段階があったのか
2. それぞれの段階で、どのような意図で、どのような営業活動が行われたのか
3. その時に、どのようなツールを持参したのか、あるいはどのような人と同行したのか
4. 営業活動を行った結果、何がわかったのか、何が実現できたのか
5. どこに重要成功要因があったのか
6. その他 気をつけておくべきポイント(例えば競合他社への対応)は何か
について聞き取ることを確認しています。 また、X氏に対しては、インタビューの目的と上記のインタビューのポイントを説明したあと、
1. 一つの案件に絞って話をしていただくこと
2. できるだけ時間を追って話をしていただくこと
を依頼しました。

(コンサル)
「Xさんは、今回食品会社Y社の“秋の新商品の販売促進キャンペーン”を、数ある競合他社を退けて、初めて受注されたわけですが、“どのような活動を行って成功されたのか”について、教えていただけますか。受注に至った営業活動とその内容について、時間を追ってお話願います。 いつ頃から、このような商材があることに気付かれていましたか」
(Xさん)
「毎年、Y社が、秋に新商品のキャンペーンを行うことを知っていました。販売促進用のグッズを納めていましたから。」
(コンサル)
「なぜ、この販売促進キャンペーンの企画を受注しようと考えられたのですか」
(Xさん)
「なぜと言われると困るのですが、何か企画モノを受注したいと思っていましたし、Y社の営業企画課長とコミュニケーションはとれていましたから。それと、新商品だから、新しい企画を持っていけば、受け入れてもらいやすいと思ったからかもしれません。」
(コンサル)
「いつ頃から、アプローチを開始されたのですか。」
(Xさん)
「今まで、Y社からは細々と販売促進用のサービスグッズの注文を頂いていたのですが、今回"秋の新商品の販売促進キャンペーン"にターゲットを絞って、販売促進企画の受注にアプローチするようになったのは、6月くらいからです。」
(コンサル)
「「いつまでに、受注しようと考えていたのですか。」
(Xさん)
「販売促進キャンペーンが10月です。そのためには、9月初旬には受注しなければならないと考えていました。」
(コンサル)
「6月というのは、相当前からの準備ですが、何か理由があったのでか。」
(Xさん)
「「いいえ、遅いくらいでした。それは、・・・ 」 <以下 略>
(コンサル)
「受注に向けて、どのような取り組みを行ってきましたか。時間を追って話していただけますか。」<以下 略>
(コンサル)
「もう少し、詳しく教えていただけますか。最初は、どのようなアプローチからはじめられましたか。」 <以下 略>

X氏に対して、コンサルタントは、商材を選んだ理由から始まり、全体の営業活動、個々の段階における詳細な営業活動について、インタビューを進めました。途中、時間の前後関係がわからなくなったり、他の商材の話に飛躍したり、紆余曲折がありましたが、インタビューは、1時間程度続けられました。インタビューのあと、プロジェクトメンバーからの活発な質疑応答によって、不足部分が補われています。

インタビュー、質疑応答のあと、コンサルタントとプロジェクトメンバーは、X氏を交えて、聞き取りのポイントに基づいて、X氏の営業プロセスを整理するとともに、X氏の成功要因を検討しました。

次回、その検討内容を報告します。

E社の事例 その4

「君が そこまで考えて営業していたとは、私が不勉強だった」

検討会のあとに、社長の口からX氏に対して出されたコメントです。

(社長)
「X氏は、本当にあそこまで考えて、営業していたのだろうか。だとしたら、もっと成績が上がってしかるべきなのだが」
(コンサル)
「いえ、営業している時は、無意識だったと思います。プロジェクトメンバーとの議論の中で、X氏自身が自分の成功要因を形式知として気付かれたのです。今まで、自分自身の成功要因に気付いていないために、成功したり、しなかったり、バラツキが大きかったのではないでしょうか」

検討会の内容を振り返ります。

(コンサル)
「まず、Xさんの成功ステップを整理しましょう。どなたか意見はありませんか。Aさんの考えはいかがでしょう。」
(Aさん)
「まず[得意先の情報収集]があって、その次に[今回のキャンペーンの情報収集]、次に[・・・][・・・][・・・]、そして[受注]ができたのだと思います。」
(コンサル)
「では、Aさんの意見をたたき台にして、それぞれのステップの目的と成果、そして活動内容を書き出してみます。 さらに、各ステップで持参した、営業ツールやサンプルも忘れないで備考欄に記述します。 また、現れた競合他社も大事ですから、備考欄に記述しておきましょう。特に、競合他社との競争にどのようにして勝ってきたのか、判るように記述します。 まず、Xさんに聞きます、[得意先の情報収集]を、何故しなければ成らないと思われましたか。」
(Xさん)
「販売促進キャンペーンの企画に参画したい、何か提案をしたい、と思いましたが、何を提案したらよいのか判らない。得意先のことを何も知らなかったと気付いたからです。」
(コンサル)
「それで、どのようなことが判りましたか。」
(Xさん)
「得意先の主力商品、主力商品がどのような顧客に販売されているか、・・・・など、色々判りました」
(コンサル)
「色々の内容は、あとで具体的に抽出するとして、今のご回答が、このステップの成果ですね。代表的な項目を成果の欄に記述しましょう。 では、Xさんは、何故このような情報を収集したのでしょうか。」
(Bさん)
「[採用してもらえるプレゼンをする]ためではないですか。」
(コンサル)
「Bさん、いい意見ですね。みなさん、他に意見はありませんか。では、目的の欄に、[採用してもらえるプレゼンをするために得意先情報を収集する]と記述してみましょう。 では、そのために、Xさんはどのような活動をしていましたか。」

<以下 略>

(コンサル)
「では、ステップごとに、Xさんの成功要因を抽出してみましょう。」
(Cさん)
「得意先の要望を商談相手の企画課長だけでなく、我社の商品を実際に使う営業部長にまで聴きにいかれたことだと思います。」
(Xさん)
「Cさん、成功要因と言うが、今のようなことは、誰でもしていることではないのか。」
(コンサル)
「Xさん、みんなの意見を聴いてみましょう。Xさんのように営業部長や営業課長、営業マンと懇意にしていますか。」
(PJメンバー)
「挨拶ぐらいはしますが、親しく話を聞ける関係ではありません。」
(PJメンバー)
「私もそうです。」・・・
(コンサル)
「「Xさん、やはり成功要因のようですよ。優秀な方ほど、成功要因が普段の活動になっているので、気付かないのです。」

<以下 略>

このようにして、X氏の成功事例に基づく、成功プロセスが抽出されました。そこで、冒頭の社長の発言となったのです。

今回のインタビューを通じて、社長をはじめ、プロジェクトメンバーは、
1. X氏の営業活動がプロセスに基づいて行われてきたこと
そして、
2. 成功要因をキチンとおさえていること
など、あらためて多くの気付きを得たのでした。
しかし、実際に最も多くの気付きを得たのは、自分の営業活動の強みを再認識したX氏だったのです。この後、X氏はさらに成果を上げるようになったのです。

次回は、X氏の成功事例、及び他の営業マンの成功事例に基づいて、営業プロセスモデルを構築する場面についてご報告します。

E社の事例 その5

このモデルを全員がマスターすると強力な営業部隊になる

営業プロセスモデルを整理したときの社長の認識です。

(コンサル)
「そうです。営業プロセスモデルを多くマスターしている営業マンが、顧客対応力や案件対応力のある営業マンとなるのです。」
(コンサル)
「皆さんとの検討を通じて、Xさんの成功ステップが整理されました。これからは、この成功ステップをたたき台として、誰でも活用できる『新規案件受注の営業プロセスモデル』を作成していきましょう。」
(社長)
「営業プロセスモデルまで作らなくても、Xさんの成功ステップだけで十分ではないか。」
(コンサル)
「社長の疑問は、重要な疑問です。皆さんも、社長と同じような疑問を持たれていませんか。」
(PJメンバー)
「私も、社長と同じ意見です。」
(PJメンバー)
「私も同じです。」・・・
(コンサル)
「全員が、Xさんになるのであれば、Xさんの成功ステップで十分でしょう。また、Xさんの活動が、効率的に成果につながっているのか、検証を重ねる必要があるのです。言い換えると、さらに、もっと優れた活動があるかもしれないのです。成功ステップでは、[ステップの区分][目的][成果][活動内容][持参したツール]そして[活動内容や持参したツールの中から重要成功要因の抽出]を行いました。
営業プロセスモデルでは、[ステップの区分][目的][目標][重要成功要因][標準活動][標準ツール]の順で、整理をします。
成熟度の低い営業マンに対しては、標準活動、標準ツールの活用ができるように、徹底して指導しますが、成熟度の高い営業マンに対しては、目的、目標を重視して、活動内容やツールの活用は、どんどん新しいことにチャレンジして頂くのです。成熟度の高い営業マンのチャレンジによって、営業プロセスモデルをさらにレベルアップしていくのです。」
(社長)
「なるほど、Xさんの成功モデルだけだと、Xさんのレベルで営業マンの成長が止まってしまう、ということですか。」
(コンサル)
「流石に、良い気づきだと思います。では、営業プロセスモデルを作成していきましょう。まず、異論がなければ[ステップの区分][目的]をそのまま転記しましょう。次に、[成果]の内容を、そのまま[目標]と置き換えて、よろしいですか。」
(コンサル)
「[得意先の情報収集]のステップの[目標]は、大項目として[得意先のマーケティング情報の収集]、そして、小項目として[主力商品][主要顧客][販売促進の目的][・・・]という表現の方が、誰もが理解しやすいと思います。」
(コンサル)
「では、[目標]を実現するための[重点成功要因]は、どのように表現すればよいでしょうか。」 <以下 略>

このような、議論を繰り返して、『新規案件受注の営業プロセスモデル』ができあがりました。

(コンサル)
「成熟度の低い営業マンに対して、営業プロセスモデルだけを見せても、具体的な活動がイメージできません。そこで、Xさんの成功ステップを営業プロセスモデルの事例としてファイルしておくことが大切です。さらに、Xさんの成功ステップだけでなく、他の営業マンの成功事例も蓄積していくことが重要です。 まず、営業プロセスモデルに基づいて、営業活動を開始しましょう。営業活動と同時に、営業マンのトレーニングの方法、標準ツールの整備の方法を検討していきましょう。」

次回は、営業プロセスモデルを活用した、営業マンのトレーニングについてご報告します。

E社の事例 その6

営業マンが目的意識を持って活動するようになってきました

営業プロセスマネジメントの導入をはじめてから数ヵ月後、社長からの報告です。営業プロセスのメニューも増え、毎週、営業ミーティングを行い、営業プロセスの進捗度を評価するようになっていたのです。どのような営業ミーティングをしているのか、社長といっしょに参加してみました。リーダーと営業マンの会話です。

(リーダー)
「Yさんの今週の活動内容を報告してください」
(Yさん)
「案件1は、今週見積書を提出して、先方で内部検討になっています。案件2は、・・・。以上が、先週の活動です。」
(リーダー)
「今週における、案件1の営業プロセスの達成レベルは、どのレベルでしたか。」
(Yさん)
「見積書を提出して、受注を頂くことでした。」
(リーダー)
「受注を頂くという目標を実現するために、どのような準備をしましたか。」
(Yさん)
「受注するために、A案・B案・C案の三パターンの見積書を作成しました。標準プロセスの活動内容に、“比較検討ができる見積書の提出”とありますので・・・」
(リーダー)
「それで、A案・B案・C案を準備したのですね。 では、プレゼンテーションはどのようにされたのでしょうか。」
(Yさん)
「A案・B案・C案の特徴、お客様におけるメリット・デメリットを説明しました。」
(リーダー)
「その他 受注するために工夫したことはありますか。」
(Yさん)
「いいえ、特には考えませんでした。工夫が足りなかったから、受注できなかったのでしょうか?」
(リーダー)
「その点をいっしょに考えてみましょう。 まず、Yさんはなぜ受注と言う目標が達成されなかったと思いますか。なぜ、持ち帰り検討という結果になってしまったと想いますか」
(メンバー)
「3つの提案書を作成したことは、非常に評価が高かったと思います。 ただ、プレゼンテーションについては、不十分だったと思います。」
(リーダー)
「どのような点が不十分だと思いますか。」

<以下 省略>

(コンサル)
「毎週、このようなミーティングを行っているのですね。」
(社長)
「見ていただいたように、グループミーティングです。時間は一人あたり30分程度。営業プロセスに基づいて、案件ごとの進捗状況をチェックしています。そして、営業マンには、次週の営業プロセスの達成目標を発表させています。交代でロールプレイングもやっています。」
(コンサル)
「リーダーのZさんの質問がいいですね。 考えさせる質問をしています。はい・いいえで答えられない、オープンな質問しているのがいいですね。 部下育成には、考える習慣をつけさせることが大切です。」
(社長)
「Zさんのチームは成績が上昇しています。それは、Zさんの質問の仕方が良いわけですね。それでは、リーダーに他のリーダーのミーティングを見学するようにさせよう。そこで他のリーダーの良さを吸収すればよいわけだ。」
(コンサル)
「答えをすぐに言わずにリーダーにも考えさせようと言うことですね。」
(社長)
「良い考えと思いませんか。」
(コンサル)
「ぜひ、やりましょう。」

このようにして、E社ではミーティングプロセスまで共有する取り組みが始まったのです。

次回は、営業マンの体験情報を共有化して、営業プロセスをレベルアップする取り組みについて、報告します。

E社の事例 その7

新しい営業プロセスにチャレンジしていない。

E社 社長の苛立ちです。営業プロセスの導入・活用によって、営業部門の体質強化が進み、営業部門の成果が認められるようになってきました。しかし、社長には、営業部門は今の成果に自己満足していると写っているようです。

(コンサル)
「社長は、営業マンに対して、“標準の営業プロセスにこだわらず、新しい営業プロセスにチャレンジするように”日々奨励しています。会社として、チャレンジした営業プロセスの結果を、どのように把握していますか。」
(社長)
「チャレンジした結果は、ミーティングで発表している。」
(コンサル)
「ミーティングで発表された後、どのように活用していますか。」
(社長)
「発表して、そこで満足しているところが私には不満だ。 折角チャレンジしても、営業プロセスの変革や新しい営業プロセスの創造に結びつかない。もう一度、インタビューからやり直さなければならないのだろうか。それでは進歩がないような気がする。」
(コンサル)
「おっしゃるとおりです。“チャレンジを成果に結びつける仕組”が必要です。」
(社長)
「“チャレンジを成果に結びつける”ということは、どういうことなのか、よくわからない。詳しく教えて欲しい。」
(コンサル)
「チャレンジすると、チャレンジが成功する場合もあります、また、失敗する場合もあります。 ここで大切なことは、失敗に対する考え方です。」
(社長)
「失敗に対する考え方とは、どういうことか。」
(コンサル)
「チャレンジに対しては、失敗の概念がないと言うことです。チャレンジして成果がでなかった場合、社長はどのような対応をしていますか。例えば、X氏が新しい案件に対して、今までと違ったアプローチをして受注に失敗(失注)した場合です。」
(社長)
「なぜ、わざわざリスクを負って、新しいアプローチをしたのか、その意図を聞きたいね。そして、失注してしまったのだから、どうして失注したのか、原因を追求するだろうな。」
(コンサル)
「そこが問題です。社長は、“常々新しいチャレンジをしなさい”と方針を出しています。一方で、“わざわざリスクを負って・・・”という発言は矛盾しませんか。チャレンジはリスクを伴うものなのです。」
(社長)
「それでは、どのように対応したらよいのか。」
(コンサル)
「そのやり方では、成果に結びつかなかったことが判った訳ですから、それも成功なのです。まず、社長の方針通り、チャレンジしているわけですから、チャレンジしたことを認めることが大切です。チャレンジしたことを叱って、原因追求を求めると、営業マンは、どのように感じるでしょうか。」
(社長)
「私の方針と行動が違う・・・。そのように感じるだろうな。なるほど、それで、営業マンはダイナミックなチャレンジをしないのか。 まず、チャレンジを褒めてから、チャレンジした理由を聴く、原因を分析するように指示をする、ということですね。」
(コンサル)
「そうです。チャレンジする風土を創ることが大切なのです。 ただし、チャレンジしたプロセスおよび結果に対して、成果に結びつかなかった原因を分析することは徹底するべきです。それは、成功事例でも、同様です。なぜ、成功したのか、なぜ、失敗したのか、原因を分析することが重要です。 そして、チャレンジしたプロセスおよび結果を蓄積、共有、活用することによって、新しい我社独自の営業プロセスが創造できます。その仕組を創ることが、E社さんの営業力強化に繋がります。」

このようにして、E社の社長は、営業マンがダイナミックなチャレンジに取り組まない、あるいは新しい営業プロセスが創造されない原因が、自分の「方針と行動の不一致」にあることに気付かれました。そして、成功事例、失敗事例を蓄積、共有、活用する取り組みが行われるようになりました。
E社では、自社の小さな成功事例から、営業プロセスマネジメント、さらにチャレンジを成果に結びつける仕組を、構築したのでした。

みなさんの会社でも、成功事例が眠っていないでしょうか。