コンサルティング物語

コンサルティング物語
「価値観の醸成」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

会社の軸創りクラス研修 -ある後継者の気づき-

その1

~会社の軸創りクラスの開催~

今回のコンサルティング物語は、EMEの関連会社の100年企業創り(株)が主催するオープン型合宿研修「会社の軸創りクラス」(以下、「会社の軸創りクラス」と表現します)における、N社のO専務の気づきとO専務の気づきに触発された二人の社長の物語です。

「会社の軸創りクラス」の概要

  • 1.目的
    環境の変化に対応できる「ぶれない会社の軸」を創る。
  • 2.進め方の特徴
    自ら本質を追究する研究形式でおこなう。
    個別対応に加え、参加企業間の切磋琢磨により、自社だけではできない「会社の軸を追究する場」を提供する。
    ステップ毎(ステップの説明は、後述の「内容」を参照)に
    研究成果発表⇒質疑応答⇒他者からの学び・気づき⇒研究内容の深化
    を追究する
  • 3.参加対象者
    経営者および後継者/経営幹部(ただし、1社より複数名の参加も可能)
     [1回の研修あたり5社限定]
  • 4.日程と場所
    日程:前半 2泊3日  後半 1泊2日  合計5日
    場所:当社指定の宿泊研修所
  • 5.担当講師
    100年企業創り株式会社 小野知己、日髙安則
  • 6.内容(研修のステップ)
    [事前課題] 会社の歴史の整理
    [前半] 2泊3日
    ◎経営理念の研究
    ◎自社の組織プロフィールの整理・確認
    ・自社の過去から現在に対する分析・評価
    ・自社の真の強みの探求
    [後半] 1泊2日
     ◎目指すべき会社像の探求
     ◎将来のために、「今、何をなすべきか」

「今回の参加者」

◎N社:創業60年 地域密着型の工務店
・O専務:4代目 後継者

◎Q社:創業40年 プラスチック容器成型加工業
・R社長:2代目 社長

◎S社:創業10年 記念日に特化したイベントサービス会社
・T社長:創業社長

参加前のO専務に対するヒアリング内容は下記の通りでした。
N社は、大都市圏の衛星都市に本社を構える、年商10億円の中堅工務店です。創業から60年、地域密着、信用第一を掲げ、地域の人口増加の追い風にも乗り、順調に成長してきました。現社長のP社長は、今後、同地域においても高齢化が避けられないと判断して、地域に密着した事業を展開してきた強みを活かして、リフォーム事業に進出したのです。その結果、N社の年商を10億円まで伸ばしてきました。しかし、近年の原材料の高騰の影響から、収益性は逓減する状態にありました。

O専務は、大手ゼネコンで修業したのち、8年前にN社に入社しました。大手ゼネコンの組織的な対応を経験したO専務は、属人的なやり方で業務を遂行する年配者の行動が、非効率に見えて理解できなかったのです。従って、年配の監督者とぶつかることも頻繁にありました。

昨年、O専務はP社長から、「O専務の入社10年を機に、社長を引退する。引退するまでに、後継者として、経営の勉強をするように」と言われたのです。O専務は、自分の描く経営ができるとモチベーションを高めた一方で、組織的な経営や業務遂行が、なぜ受け入れられないのか、このままではN社は、他の工務店との競争に負けてしまう、との焦りの気持ちだけが強くなっていったのでした。

このような状況の中で、後継者として、「“競合する工務店との競争に勝つために、どのような経営をするべきなのか”自分としてのしっかりとした方針を出さなければならない」と考え、会社の軸クラスに参加されたのでした。

一方、P社長からは、O専務に対する認識として、下記のようなコメントをいただきました。  O専務は、大手ゼネコンでの経験を活かし、組織的な経営や業務遂行を志向している。そのことは間違っているとは思わないが、N社の現状では、早急に導入することが無理な、先端的なシステムや技術であっても、「競合他社に負けないためには、導入しなければならない」と言ってくる。導入に反対すると、社長や年配者に反対されたと文句を言う。経営者としての自覚が、まだまだ、足りていない。また、業務フローの変更や評価制度の変更についても、いろいろと提案してくれるが、新たな仕組みや制度を活用するのが社員であることを忘れていることが多い。経営者となるために、人として、さらに成長してもらいたい。

自分が、承継の意志を示すことで、O専務の意識・行動が変わるだろうと考え、昨年、3年後の引退を表明して、O専務を後継者として、正式に指名したのですが、私の意図がなかなか伝わっていないようです。

このような背景のもと、会社の軸創りクラスの合宿研修が始まったのです。
合宿研修のステップとO専務の変化については、次回以降、ご報告します。

その2

~会社の軸創りクラスの開催~

前半の2泊3日の「会社の軸創りクラス」が開催されました。最初に、オリエンテーションとして、
①全体の流れの説明のあと、
②研修の目的:環境の変化に対応できる「ぶれない会社の軸」を創る
③研修の進め方:自ら本質を追究する個別研究形式でおこなう
④参加者の心構え:
 ○真面目に、真剣に取り組む
 ○健全な批判精神を持って取り組む(非難はご法度)
 ○相手の意見を、素直に、謙虚に、感謝の念を持って、受け止める
 ○切磋琢磨の精神を持って取り組む
 ○我が社の現状を踏まえて、ステップアップすることを目指す
 ○できないことがあっても、どうしたらできるかを考える
を共有しました。その後、自己紹介をおこないます。

[テーマⅠ] 経営理念(注1)の研究

(注1) 経営理念・経営方針・社是・社訓等、各社が大切にしている考え方をここでは経営理念と表現しています。

(コンサルA)
最初に、それぞれの会社が大切にしている考え方、経営理念について研究します。自社の経営理念に対して、ご自身の解釈とそのように解釈した理由を整理してください。時間は、○○分提供します。
(中略)
(コンサルB)
それでは、発表していただきましょう。O専務の解釈からお願いします。
(O専務)
我が社における大切にしている考え方は、「地域密着」「信用第一」「社員重視」の3本柱です。それぞれの考え方に対して、私の解釈を発表します。
「地域密着」:地域のお客様の建設に関わる、ご要望・困りごとを聴き、真摯に対応することです。その理由は、我が社の成長を支えてきてくれたのは、地域のお客様だからです。
「信用第一」:お客様との約束を守ることです。その理由は、約束の内容は、時間や提案内容等、多岐にわたると思いますが、たとえ、困難な内容であっても、約束を守ることが信用につながると考えるからです。
「社員重視」:社員のやりがいや働きがいを体感できる場や仕事を創造することです。その理由は、地域密着も信用第一も、第一線で行動するのは社員だからです。
(コンサルA)
まずは、参加者の方から、O専務の発表に対して、質問や意見はないでしょうか。
(一同)
・・・・
(コンサルA)
オリエンテーションの時、「健全な批判精神を持って取り組む」と言いました。「健全な批判精神」の第一歩は、「“相手の意見とは違う” 自分の意見や自分の疑問点」を相手に伝えることです。今回の場合、R社長、T社長、それぞれの会社が持っている「経営理念」は、O専務の経営理念の内容と全く同じでしたか。違うとすれば、なぜ、違っているのか、疑問を持ちませんでしたか。
(R社長)
弊社では、製品の品質向上を大切にしています。品質向上に取り組む姿勢から、新しい製品が生まれてくるという発想です。どうして、O専務の会社では、品質に関する記述がないのでしょうか。
(T社長)
弊社では、社員の切磋琢磨を重視しています。社員が主体的に能力を高めていくことが、イベント企画に向けた発想力を高めると考えています。O専務の会社も、施主さんの意見を聴きながら、住宅を建てていくためには、社員の発想力が大事なのではないでしょか。
(コンサルB)
それぞれの会社には、いろいろな価値観があると思うのですが、O専務の会社において、どのような理由で、あるいはどのような基準で、「地域密着」「信用第一」「社員重視」の3つの価値観に絞られたのでしょうか。
(コンサルA)
私からも、一点質問させてください。先ほど、O専務は、「社員重視」の内容として、「社員のやりがいや働きがいを体感できる場や仕事を創造することです」と言われましたが、このような場を創造するのは、誰ですか?
(O専務)
経営者が率先して創造する という意味です。
(コンサルA)
だとしたら、この「社員重視」という価値観は、N社の価値観というより、経営者の価値観、あるいは経営者の行動指針ととらえるべきではないのですか。N社の経営理念と考えた場合、どのようなとらえ方をするべきですか。
(中略)

O専務を皮切りに、R社長、T社長が、自社の経営理念に対する、自分の解釈とそのように解釈した理由を発表、そのうえで、発表に対する参加者、コンサルを交えた質疑応答がおこなわれました。

(コンサルA)
いかがですか。経営理念に対して、他の参加者や我々からの質問を受け、さらに、深く理解する必要があると認識されたのではないですか。そこで、質疑応答で指摘された内容や自分の気づきを踏まえて、もう一度、自分の解釈とそのように解釈した理由について、整理してください

(以下略)

このようにして、「経営理念の研究」が進められていきました。ここでの学びのポイントは、今ある経営理念を、ただ解釈するだけでなく、①どのような背景から、我が社の経営理念になったのか(経営理念の歴史や背景)、②会社の経営理念とは、どのようなものなのか(経営理念の本質)、③経営理念が経営における判断の基準になっているのか(経営理念の浸透) 等を学ぶことにあります。

続いて、「会社の軸創りクラス研修」は、[テーマⅡ] 組織プロフィールの研究 に移ります。[テーマⅡ] の最初は、[テーマⅡ-1] 過去から学ぶ ~自社の30年史を研究する~ です。
現在の会社の状態は、過去の活動の結果です。従って、過去を正しく認識しなければ、現在を理解したことにならないのです。一方、将来から見た現在は、将来の成果を担保するものと考えられます。今、革新していかなければならない理由は、ここにあるのです。
まず、我が社は、なぜ、企業として存続できてきたのか、その背景を学びます。学びの内容は、次回ご報告します。