コンサルティング物語

中小企業のバランス・スコアカード(BSC)には「リーダーシップの視点」が必要

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

 中小企業のバランス・スコアカード(BSC)には「リーダーシップの視点」が必要
−中小企業は理念共同体(リーダーシップの視点を組み込んだ背景)−


その1

コンサルティング物語

〜今のままでは、我が社の将来はない〜

EMEでは、中小企業は「理念共同体」であり、経営理念・経営ビジョン・戦略プログラムを定着させるためには、経営者・経営幹部のリーダーシップが、特に重要と考えています。EMEのバランス・スコアカード(以下、「EMEのBSC」)では、このような中小企業の特性を踏まえて、一般的なBSCの4つの視点(@顧客の視点、A業務プロセスの視点、B学習と成長の視点、C財務の視点)に加えて、Dリーダーシップの視点を組み込んだ、中小企業のBSCの導入を支援しており、多くの賛同をいただいています。

今回は、EMEが、リーダーシップの視点を組み込んだ「EMEのBSC」の導入支援をおこなうきっかけとなった、中堅工務店Y社の事例をご報告します。
Y社とのご縁は、17年前のC専務との出会いにさかのぼります。
Y社は、創業者である祖父および現社長である父親が、大都市近郊のベッドタウンZ市の発展とともに、注文住宅を中心に事業を拡大してきました。祖父のA氏は、腕の良い大工の棟梁として、大工仲間からも一目置かれる存在でした。さらに、父親であるB社長が、A氏の元で修行し、鍛えられて育った、職人気質の社長として、Y社を中堅工務店に育て上げたのです。特に、職人気質のA氏やB社長は、地域の世話役を引き受け、地域からも信頼されるリーダー的な存在でもあり、Y社は、Z市の成長に加え、地域からの信頼と、腕の良さとの相乗効果で、業績を伸ばしていったのでした。
3代目のC氏は、大手ゼネコンに就職後、一定の修行期間を経て、5年前にY社に就職しました。しかし、C氏が入社した頃、Z市はベッドタウンとしての成熟期を迎えており、あらたな注文住宅の需要が減少、近年の業績は、頭打ちから下降傾向となっていました。
C氏が、私どもに相談に来たのは、1年前にB社長から専務という役職を与えられ、業績が停滞するなか、専務として、後継者として、次のY社の方向性を決めないといけないと悩んでいるときでした 。

C専務 : 住宅建築業の弊社では、祖父の代から、「地域への貢献、地域との信頼」をモットーに事業に取り組んできました。祖父や父からは、何度も、何度も、「地域へ貢献することによって、地域のお客様との信頼関係が構築でき、結果として、注文していただける」という言葉を聴かされました。
コンサル: 経営の姿勢が明快ですね。
C専務 : しかし、近年、業績は低迷を続けています。正直、何が業績悪化の原因なのか、つかめないでいます。祖父から事業を引き継いだ親父は、今でも地域の自治会の会長を務めていますし、地域のイベントにも積極的に参加して、地域の活性化に貢献しています。ただ、最近、気になっていることは、今までの地域への貢献が、結果として、受注に結び付く環境ではなくなっているのではないか、ということです。
コンサル: どうして、そのように感じるのですか。
C専務 : 数か月前、自治会の役員の家を建て替える際、社長は、当然私どもに依頼が来ると思っていたのですが、別の工務店に取られてしまったのです。あとで、その役員に、どこに発注されたのかを聞いたところ、息子の仕事関係の工務店に依頼したとのこと、少し気まずい雰囲気が流れました。
コンサル: C専務に、あらためてお聞きしますが、我が社が、お客様から選ばれている理由、建築の依頼をいただけている理由は、何だと思われますか。
C専務 : それは大工仕事の腕と地域との信頼関係でしょう。
コンサル: 地域との信頼関係とは、だれとだれの信頼関係でしょうか。
C専務 : それは、親父と地域の方々・・・。
コンサル: では、先ほどの案件は、なぜ失注したのでしょうか?
C専務 :

親父と一緒に地域を盛り上げてきた人たちが、引退の時期となっている。
[専務の顔色が変わりました]

コンサル: 家を建てる、家をリフォームする、その意思決定をする人たちが、次の世代に代替わりしていっているのではないですか。C専務は、これから意思決定する世代に、信頼関係を築けるようなアプローチをしてきましたか?
C専務 :

現場の仕事に追われて、今まで、何もしてこなかった・・・。業績が落ちている原因がわかりました。今のままでは、我が社の将来はありません。私は、何をするべきなのでしょうか。

コンサル: B社長は、C専務に経営を任せていこうとしているわけですから、その期待に応えるために、C専務としての中期計画を策定するべきではありませんか。そのとき、初めて経営者としての心構えができるはずです。
C専務は、これから、我が社をどのような会社にしていきたいですか?
C専務 : 今まで、そのようなことを考えてもいなかった。
コンサル: 経営を任されるということは、現実を把握して、夢を描き、実現していくことです。そのためには、自分の意思をしっかり持つことが大切です。まずは、C専務の夢創りから検討しませんか。
C専務 : 業績が低下する中、B社長から経営を任すといわれて、一人悩んでいました。今日、相談にきて、本当に良かった。

このような経緯から、B社長とも話し合い、B社長の了解のもと、BSCの考え方・フレームワークを活用して、C専務の中期経営計画作りが始まりました(後から考えると、B社長は、C専務の教育係りという位置づけで、コンサルタントをとらえていたようでした)。しかし、C専務の夢を具現化しようとしたとき、大きな壁に遭遇したのです。大きな壁の内容については、次回報告します。




その2

コンサルティング物語

〜価値観を浸透させる視点がない〜

C専務は、施主様の世代交代による信頼関係の分断という現実を重く捉え、B社長と施主様の個人的な信頼関係から、会社と施主様との信頼関係に変えていきたいという想いを込めて、将来の夢を「地域から愛されることによって、世代を超えて信頼関係が継続する会社を創る」としました。
そして、夢を実現する戦略をBSCの視点から、[顧客の視点]では、“会社としてのお客様創り”を目標に、地域のお客様、取引のあるお客様に区分して、対応を整理していったのです。そのあと、会社の取り組みとして、[業務プロセスの視点]では、顧客満足を実現する“納期遵守と品質向上”、[学習と成長の視点]では、“技術・ノウハウの蓄積と発揮”、[財務の視点]では、“案件ごとに売上・利益を把握する仕組み創り” を整理しました。

 

コンサル: 専務の夢を実現するために、BSCの取り組みの中で、“最も重要な取り組み”、言い換えると、専務の夢を実現する“最重要成功要因”は何ですか?
C専務 : 私は、会社の仕組みとして、「引渡し後の定期的なアフターフォロー・点検」を、会社として実施したいと考えています。B社長までの時代であれば、人と人のつながりで信頼関係を構築できたと思いますが、これから、Y社と“世代交代した、この地区に住み続ける世帯主”との信頼関係を結ぶには、仕組み化したサービスが不可欠だと考えるのです。
さらに、「引渡し後の定期的なアフターフォロー・点検」を、会社として実施することにより、「個人と施主様との関係から、会社と施主様との関係」に変えていくことにつながります。将来を見据えて、会社の組織観を、個人個人の集合体から、方針に基づいて動く集合体に変えていかなければなりません。
 [中略]

しかし、C専務の中期経営計画をB社長はじめ経営幹部に報告したところ、この“アフターフォローの取り組み”が、B社長や古参の職人から猛反発を受けたのです。

B社長: 今まで、数多くの注文住宅を造ってきたが、お客様からのクレームは皆無に等しい。定期的なフォローをするということは、我々が施工した住宅に自信を持っていないということを公言するようなものではないか。生活していく中で不具合があれば、施主から我々に連絡がある。俺は、地域の世話役をやりながら、そのような声をかけやすいようにしている。
職人D : C専務、なぜ我々は、わざわざ定期的なフォローをしなければならないのですか。わざわざ訪問して、寝ていた施主様のクレームを起こさなければならないのですか?
職人E : 私も、定期フォローをする時間があったら、現場の施工の品質を上げる指導をするべきだと考えます。
C専務 : 皆さんの言うことはもっともです。私も今までのやり方が「悪い」と言う気はありません。しかし、今までのやり方を踏襲するだけで、新しい工夫をしていないから、案件数が減っているのではないでしょうか。また、数ヶ月前には、我が社と関係が深かったお客様が、家を建て替えるとき、当然、我が社に発注してくれると信じていたにも関わらず、実際は、意思決定が息子さんの世代に代わったことから、我が社に依頼してくれませんでした。
職人D : あの案件は、C専務が息子さんとコミュニケーションが取れていなかったからではないのですか。
C専務 : 私の問題だというのですか?家の立替の話は、社長の耳にも届いていなかったのではないですか?
[中略]

コンサル: いろいろ大切な意見がでました。ただ、第三者である私の耳には、C専務も役員の皆さんも、お互いに自分の主張をしているだけのように聴こえます。もう一度、議論のポイントを整理して、再度、C専務の中期経営計画の内容を議論しましょう。

このようにして、ボタンの掛け違いの議論をコンサルタントが預かり、再度、論点を整理して議論することになりました。

C専務 : (社長や職人の全面否定にショックを受けながら)会社としての考え方を変えないといけないはずなのに、なぜ、社長に理解してもらえなかったのでしょうか。
コンサル: 私も、C専務が提案したことは、現在の経営環境を踏まえると、Y社において間違っていないと認識しています。だからこそ、専務がB社長や職人の方々の懐の中に飛び込んでいく覚悟が必要なのです。
C専務 : 懐の中に飛び込んでいくとは・・・ どういうことですか。
コンサル: B社長や職人の方々の考えを理解してほしいのです。なぜ、全面否定をされたのか。
C専務 : 自分たちの「仕事に対するプライドが傷ついた」と感じたからでしょう。
コンサル: では、なぜ、「仕事に対するプライドが傷ついた」と感じたのでしょうか。
C専務 : ・・・
俺たちは、定期的なフォローをしなければならないような甘い仕事はしていない そう言いたいのですね。
コンサル: 裏を返せば、「定期的なフォローをすることによって、現場での仕事が甘くなる」と直感的に感じたのではないでしょうか。
C専務 : 会社として、「現場での仕事の品質を担保する」という考え方は希薄でした。
コンサル: 今の気づきを踏まえて、もう一度、「“自分は何をしたいのか”、そのために“自分は何をしなければならないのか”」B社長と話し合われたらどうですか。
C専務 :  B社長と話し合う前に、まず、自分の気持ち、やりたいことを整理します。
[中略]

C専務 : ところで、「今後、自分のやりたいことを明確にすること」、「自分のやりたいことを浸透させる取組み」は、どの視点で表現したらよいのでしょうか。[学習と成長の視点]では、物足りない気がします。

このC専務の質問に対して、私の頭の中に衝撃が走りました。私は、「中小企業は“理念共同体”」だと常々考えていました。その理念共同体の根幹である「新しい価値観を構築し、浸透させていく視点がない」ことに気づいたのです。
あらためて、C専務と一緒に、BSCに「新しい価値観を浸透させる視点」を取り入れるチャレンジが始まったのです。

チャレンジの内容については、次回報告します。



その3

コンサルティング物語

〜リーダーが変わる、リーダーとして成長する〜

最近では、定期的なアフターフォローを実施している工務店も増えています。それぞれの企業において、職人のプライドを大切にしながら、仕組み化していくことには、経営者の決断と地道な努力があったと推察しています。
Y社のC専務の場合も同様でした。
C専務は、あらためて自分の考えを整理するために、自分とB社長との比較において、自分の強みと弱みを整理しました。
〔強み〕
・ゼネコンで培った施工管理・納期管理のノウハウがある。
・同様に、引渡品質・クレーム対応のノウハウがある。
・B社長の後継者としての知名度がある。
        :

〔弱み〕
・大工としての技術が不足している。
・棟梁からの人望が薄い。
・地域との人間関係が希薄である。
        :

強みと弱みを整理する中で、“自分は、この会社(Y社)に対して何ができるのか”“自分は、この会社(Y社)をどうしたいのか”“自分は、この会社(Y社)の将来に対して何をしなければならないのか”を、コンサルタントの支援を受けながら、自分の考え方として固めていったのです。ある時、C専務は、コンサルタントから次のような質問を受けました。

 

C専務: 「なぜ、引渡し後に定期的なアフターフォロー・点検をしなければならないのか」、一方で、「なぜ、職人たちが、現場でキチンとした仕事をして、仕事の品質を担保しなければならないのか」、それは、すべて、「世代交代した施主さん、そして、これからのお客様になりうる世帯主さんと、良い信頼関係を築くためにある」ことが整理できた気がします。
コンサル: ところで、C専務は、どうしてY社の専務となれたのでしょうか。
C専務: 藪から棒に何という質問をするのですか。
コンサル: いえ、申し上げたとおりの質問です。
C専務: それは、親父であるB社長から、後継者としてY社を任されたからではないですか。
コンサル: では、B社長からY社を任されなかったら、あなたは永遠に部長でよかったのですか。
〔C専務からの回答なし〕
コンサル: C専務は、本当に、B社長や職人の方々が、アフターフォローの活動をしていないとお考えですか。私は、そうは思いません。職人の方々は、自分の施工物件に責任を持っているとともに、どのように使われているか、使い心地は本当に良いのか、常に気にしていると思っています。恐らく、世話役の会合や往来での会話の中で、聴き取りをしているはずです。そして、不具合があるとすぐに補修にでかける、そうして、地域との信頼関係を築いてこられたのではないでしょうか。
C専務: 私も、B社長や職人の方々が、物件を引渡したあと、そのまま放置しているとは思っていません。しかし、そのことと、「どうして専務になったのか」との質問にどんな関係があるのですか。

コンサル: 私は、C専務が、「B社長からY社を任されたから、専務になった」と、自分の立場を受身にとらえられているので、B社長や職人の方々の想いや活動が見えていないのだと思っています。C専務が、本気でB社長の「社長としての仕事」を取りにいかれたとき、言い換えると、自分がB社長の立場で、「どのように判断・決断をするべきか」と考えたとき、初めて、B社長や職人の方々の想いや行動が見えるのだと思います。

[中略]

コンサルタントは、C専務に対して、新しい経営者となるために、B社長や職人の方々の過去の経験や考え方や行動を肝(ハラ)に落とし込んで、その上で、自分の方針をだすことの大切さを伝えようとしたのです。なぜならば、今の組織は、B社長の価値観で成り立っています。そこに、新しい価値観を一方的に注入しようとしても、反発を招くだけだからです。その反発が、前回の会議でおこったのです。C専務は、前回の会議のあと、私が「B社長や職人の懐に飛び込んで・・・」といった意味を、十分に理解されていませんでした。
その後、C専務は、コンサルタントと話し合う中で、(最初は理解ができなかったようですが)徐々にコンサルタントの言葉の意味を理解されたのです。

C専務は、もう一度、B社長と職人の方々に時間を取ってもらい、B社長と職人の方々が持っている「施工に対する姿勢」や「アフターフォローに対する考え方」、「実際におこなっている活動」についてヒアリングするところから始めました。その結果、B社長も職人の方々も、胸襟をひらくようになり、C専務の考え方・方針に対して、全面的にバックアップするという合意ができたのです。  
胸襟を開く中で、次のような会話が交わされていました。
職人D: C専務の言葉は難しすぎて、我々にはよう分からんかった。でも、専務の言葉だから、聴いたふりをしとった。
職人E: C専務は、もう我々の言葉は聴いてくれないのだと思っていた。時代が変わったのだから、我々は、B社長と引退することを考えていた。
C専務: これからのY社には、まだまだ、皆さんの力が必要です。ぜひ、力を貸してください。
B社長 : C専務もやっと経営者の顔になってきた。みんなで、C専務を盛り上げてほしい。そしたら、私も安心して引退できる。
職人D: 私も引退できる。
職人E: 私も引退できる。
C専務: それはないですよ。(笑)

C専務が、中期経営計画を報告したときとは、まったく雰囲気が変わっていました。その後、C専務とコンサルタントは、C専務がどのようにして成長してくのか、C専務の考え方をどのようにして浸透させていくのか について議論を始めたのです。




その4

コンサルティング物語

〜リーダーシップの視点を組み込む@〜

C専務の悩みは、「B社長や古参の職人が、自分の考え方に胸襟を開いてくれたとはいえ、社内に対して、B社長の価値観を受け入れながら、自分の考え方ややりたいことを、どのようにして伝えていくか、どのようにして具現化していくか」ということでした。中小企業は理念共同体です。善くも悪くも、B社長の価値観に基づいて、仕組みや組織が創られ、人が育成され、評価基準が創られていきます。従って、新しい仕組みを導入する場合、B社長の価値観の解釈を変えていく必要があるのです。

そこで、コンサルタントは、「B社長の価値観を、C専務が時代に合わせた解釈に変え、社内に浸透させていくためには、まずは、C専務の取組みを整理することが重要」だと考え、経営戦略を構築するC専務にある提案をおこないました。

 

C専務: 単純に新しい仕組みを作るのであれば、業務プロセスの視点で整理すればよいと思います、また、人材育成を考えるのであれば、学習と成長の視点で整理すればよいと思うのですが、価値観の浸透というのは、企業において、最も基盤になるものなので、どちらの視点で整理するにも違和感があります。
コンサル: 私もC専務の悩みを感じながら、価値観の新しい解釈、新しい解釈の浸透をどのように実現すればよいのか、そして、その取り組みをどのように整理すればよいのか、私にとっても大きな課題でした。そこで、一つ提案があります。既存のバランス・スコアカードの視点から離れて、もう一つ、Y社のオリジナルの視点「価値観の浸透の視点」を取り入れませんか。
C専務: 「価値観の浸透の視点」というのは、言葉では、なんとなくわかるように思うのですが、具体的に、自分の中でどのように整理をすればよいのか、つかみどころがありません。
コンサル: 私自身も、◎◎という観点から整理してください、と言える状態ではなく、C専務と対話しながら、「価値観の浸透の視点」の枠組みを創っていきたいと考えているのです。
C専務: それって、私がモデルになるということですか。モデル料は高いですよ(笑)
コンサル: 創り出す価値でお返しさせてください(笑)。一つひとつ、質問をしていくので、C専務のお考えを教えてもらえますか。まず、3年後をイメージしてください。「価値観が浸透している組織の状態として、どのような状態をイメージしますか」
C専務: 将来の夢に描いている「地域から愛されることによって、世代を超えて信頼関係が継続している」という状態ではないでしょうか。
コンサル: もう一歩、具体的に・・・ 地域から愛されるために、B社長やC専務や職人だけでなく、社員は、どのような価値観で行動していますか。
C専務: 「地域の人たちに対して、明るい挨拶をしている」「地域の行事に積極的に参加している」「地域に貢献したいと考えて行動している」・・・
コンサル: 「Y社の社員が一丸となって、地域に貢献する活動をおこなっている」という理解でよいですか。
C専務: 今までは、B社長や職人が主体的に地域貢献をおこなっていて、社員は、受注した案件を誠実に納品することが求められていました。そのことが、技術力や品質の向上につながってきましたが、地域への貢献という意識は、低かったと思います。「Y社では、社員全員が地域に貢献する意識を持ち、結果として、Y社の業績につながっている」そんな会社にしたいのです。
コンサル: 今、C専務がおっしゃったことが、「価値観の浸透の視点」の“戦略目標”ですね。では、Y社の社員全員が地域に貢献する意識を持つための“重要成功要因”は、どのようなことだと考えられますか。
C専務: B社長や古参の職人がおこなってきた地域への貢献という考え方と行動を整理するとともに、社員一人ひとりに、「地域のために自分は何ができるか」を考えさせること、そして、何よりも大切なことは、私自身が率先垂範して、新しい価値観に基づく行動に取り組むことだと思います。
コンサル: 私も、C専務が、新しい価値観に基づく行動を、率先垂範して起こしていくことが、最も重要だと考えます。
C専務: しかし、“業績指標”や“業績目標”については、イメージがつきません。どのように考えればよいのでしょうか。
コンサル: これは、私からの提案ですが、弊社では「社員意識調査」という調査票があり、その調査票の評価点を“業績指標”“業績目標”にしてはいかがでしょうか。価値観の浸透は、社員の意識・行動の変化として現れます、従って、意識調査によって、価値観の浸透レベルを「見える化」するのです。
C専務: 「社員意識調査」の具体的なやり方を教えてください。
   [中略]

《参考》 「社員意識調査」については、HPの「経営理念の確立・浸透のために」をご参照ください


このようにして、C専務の「新しい価値観“全社員が一丸となって地域に貢献する”を浸透させていく」取組みが明確になりました。特に、アフターフォローをC専務が、率先垂範しておこなうことにより、「地域への貢献において、なぜ、アフターフォローが重要なのか」「なぜ、アフターフォローすることによって、地域貢献につながっていくのか」が浸透するようになりました。

Y社の事例から、バランス・スコアカードに「リーダーシップの視点」を一般化した取組みについては、次回 ご報告します。




その5

コンサルティング物語

〜リーダーシップの視点を組み込むA Y社の事例から一般化へ〜

Y社の事例において、戦略を策定するポイントはどこにあったのでしょうか。それは、C専務も認識している「B社長の価値観を受け入れながら、自分の考え方ややり方をどのようにして社員に伝え、行動してもらうか」そして、そのために「自分の行動をどのように変えていくか」を明確にすることでした。それは、「B社長の価値観に新しい解釈を加え、Y社の企業文化(注)を“上意下達型から自走型の企業文化へ変えていく”取り組みを実行すること」だったのです。
私自身、Y社の経営戦略の策定を支援しながら、「C専務が新しい解釈を加えた価値観の浸透」や「企業文化の変革や定着」への取り組みは、Y社固有の事例と考えてよいのか、という問題意識が湧いてきたのです。
言うまでもなく、中小企業は経営理念(価値観)や考え方で結び付いている「理念共同体」です。そして、「理念共同体」の中心にいるのが経営者です。従って、中小企業が成長していくためには、経営者が経営理念と対話しながら成長すること[必要条件]、経営理念を社内に浸透させていくこと(企業文化を変革していくこと=社員が経営理念に基づいた行動ができるように習慣化していくこと)[十分条件]が不可欠なのです。
一方、経営戦略策定の考え方・ツールであるBSCの視点には、中小企業の経営者が最も大切にしなければならない「価値観の浸透」の視点が重視されていません。そこで、一般的なBSCの4つの視点(@顧客の視点、A業務プロセスの視点、B学習と成長の視点、C財務の視点)に加えて、D価値観浸透の視点(現在は「リーダーシップの視点」)を組み込んで、EMEのBSCとして、体系化できないかと考えたのです。

(注)企業や事業体といった組織は、人で構成され人々が共に働くことから価値がつくり出されます。仕事の内容や進め方は、予め設計されマニュアル等に定義されていることが多くありますが、実際の実行局面では、働く人々の人間的摩擦や歴史の中で築かれた習慣、暗黙の了解に影響を受けることになります。こうした仕組みを運用する「組織能力の根底に流れる生活様式、風習や精神構造」を企業文化と呼びます。要するに、企業文化とは「企業独自の考え方」、「習慣」に基づく「行動様式」であり、緻密な経営計画を策定しても、「行動様式」を変えなければ、求める成果はでないのです。

そこで、EMEでは、社員およびパートナーのコンサルタントと合同で、商品開発合宿をおこないました。

 

コンサル: Y社の経営戦略策定支援の経緯、そして、私が持った問題意識、さらには、体系化に向けた想いは、今まで説明した通りです。まず、問題意識を共有したいのですが、私が話したことに対して、疑問や意見はありませんか。
コンサルD: 経営戦略策定における「価値観浸透の視点」の位置づけが、まだ十分に理解できていません。Y社の場合は事業承継という特殊な事情があったから、「価値観浸透の視点」が重要だったという意味は理解できるのですが、通常の経営戦略策定において、「価値観浸透の視点」が必要なのかどうか、まだ、よくわかっていません。
コンサル: 私も、その点は、結構悩みました。しかし、今までの経営戦略策定支援の経験の中で、「戦略や計画は立派に創るのに、実際の実行段階になると、今までと同じことをしている」このような企業を数多く見てきませんでしたか。なぜ、そのような企業では、戦略が実行されないのでしょうか。
コンサルE: それは、今までのやり方の方が楽だし、失敗も少ないからです。本気で取り組んでいない。
コンサル: なぜ、本気で取り組まないのでしょうか。
コンサルF: それは、失敗を恐れているからです。一方、社長もそのような社員の姿勢や行動を容認してしまっています。
コンサル: 失敗を恐れる企業文化を、挑戦して、失敗から学ぶ企業文化に変えなければ、経営ビジョンは実現できないでしょう。そして、企業文化を変えることができるのはだれですか。
コンサルD: 社長です。
コンサル: 日本経営品質賞を受賞したG社のH社長は、「経営者は教祖様、幹部社員および管理者は伝道師、そして一般社員や顧客は信者、しかし、経営者も経典(経営理念)には従わなければならない。」といっています。日々、経営者は、価値観の浸透に取り組むべきではないですか。
[中略]
 
コンサル: それでは、「価値観浸透の視点」では、どのような項目が議論され、明らかにならないといけないと思いますか。
コンサルE: やはり、まずは“どのようにして、価値観を浸透させるか”でしょう。
コンサルD: “価値観を浸透させる”といっても、いろいろな角度から検討する必要があると思います。思いつきのような意見になりますが、ひとつ目のテーマは、浸透させる仕組み・制度に関すること、二つ目のテーマは、経営者の率先垂範に関すること、三つ目のテーマは、幹部社員や管理者、伝道師の育成に関すること このような角度からの議論が必要だと思います。
コンサル: 思いつきといいながら、ストライクの意見ではないですか(笑)。
コンサルF: 議論するべき項目としては、“価値観が浸透しているかどうか、何で測定するか”この検討が重要だと思います。
コンサルD: 「学習と成長の視点」と重複しませんか。
コンサルF: 測定する対象が違うので、重複にはならないと思います。
コンサルE: もう一点、検討するべき項目として忘れてはならないことは、“どのようにして、経営者として成長するか”ではないでしょうか。企業は経営者の器以上に大きくならないといいます。やはり、経営者の成長は、必須で盛り込むべきでしょう。
コンサル: みんなで議論するとどんどん価値があがっていきますね。それでは、もう少し、“価値観が浸透しているかどうか、何で測定するか”そして、“どのようにして、経営者として成長するか”について、Dさんの意見を踏まえて掘り下げましょう。
[以下省略]

このようにして、「価値観浸透の視点」から、経営戦略を展開するプロセスが整理されたのです。最後に、“経営理念や価値観が整理できていない”という経営者がいること、“経営者の率先垂範が、最も重要である”との認識を表現するために、「価値観浸透の視点」から「リーダーシップの視点」に名称を変えたのです。
次回は、いよいよ最終回。「リーダーシップの視点」が「我が社が、顧客から選ばれている理由」に、強い影響力を発揮していることを報告いたします。


《参考》
経営理念の浸透・企業文化の変革については、下記のコンサルティング物語もご参照ください。
◎ 新しい経営理念を浸透させる −企業文化の再構築〜
◎ バランス・スコアカードで企業文化を変える


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