コンサルティング物語

コンサルティング物語
「業務プロセスの強化」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

ABC診断を活用する

A社の事例 その1

「それは、課長の仕事か」

社長が恫喝した先を見ると、人事課長が給与袋に給与明細を詰めていたところだった。

(社長)
「毎月、この時期になると、間に合わないと言っては給与明細詰めをしている。課長がやらなくても済むように、仕事の仕方を工夫するのが、課長の仕事だろう。」

と社長のボヤキは続く。
それを聞いていたコンサルタントは、次のような質問をした。

(コンサル)
「人事課長は、自分の時間単価を知っているのでしょうか。」
(社長)
「さあ、考えたことも無いだろう。」
(コンサル)
「今の仕事振りを叱っても、本人はなぜ叱られたのか、どうしなければならないか、理解できないでしょう。本人は、自分が給与明細詰めをすることが、どれだけ時間とコストの無駄をしているか、気づいていないのですから。」「今の人事課長のように、上位資格者が一般社員の仕事をしているケースは多いのですか。」
(社長)
「気づいたときは注意しているが、非常に多い。私の見えていないところでの仕事ぶりを想像するとゾッとするね。だから、十年一日のごとく同じことばかり繰り返している。」

そこで、コンサルタントは、次のような提案をした。

(コンサル)
「まず、だれがどのような仕事をしているのか見えるようにしましょう。また、その仕事は本来誰が(またはどのレベルの人が)するべき仕事なのか、はっきりさせましょう。そして、課長が給与明細詰めをすることによって、どれだけの人件費を無駄にしているのか、はっきり理解させることです。」
(社長)
「そのような調査は、どのようにして進めればよいのかね。」
(コンサル)
「厳密に調べようとすると、誰が何をしているのかストップウォッチで測ったり、ヒアリングで活動時間を確定させる、等の手法があるのですが、社長の会社の規模(中堅企業)であれば、作業日報を活用します。 まず、どの部門を対象にするかを決めます。次に、その部門の作業項目を列挙します。これは、弊社にサンプルがあるので、サンプルをベースに検討します。そして、対象部門の社員の方全員に作業日報を書いてもらいます。 一定期間(当初は、2週間)の集計結果をもとに、どのクラスの社員がどれだけの時間について[能力-資格ギャップ]を起こしているのか、その結果、どれだけの[作業-コストギャップ]を起こしているのか、測定できます。ここまでの分析作業を[職務分析]と呼んでいます。 まず、どの部門からスタートするか、決めなければなりません。社長の問題意識の高い部門はどこですか。」
(社長)
「では、まず管理部門からやってみよう。」
(コンサル)
「次回は、管理部門が実際に行なっている作業項目(活動項目)を列挙しましょう。」

※ ということで、A社でABC診断が行なわれることになりました。

次回のコンサルティング物語は、ABC診断の第一段階である「職務分析」の結果、どのような評価がなされたのか、をご報告します。

A社の事例 その2

「こんなにも、無駄をしているのか」

2週間の職務調査の結果をコンサルタントが報告したときの、社長の第一声である。
活動毎に、本来担当すべき能力レベル(活動が要求する能力レベル=資格)と実際に担当している社員の資格のギャップを時間比率で捉えると、

本来の資格<現在の資格 45.5%
本来の資格=現在の資格 44.7%
本来の資格>現在の資格 9.8%
という結果であった。

人事課長が給与明細詰めをするように、社員の資格より低いレベルの仕事をしている時間が、管理部門全体で 45.5%にも上っていたのだった。 さらに、資格間の人件費(含む法定福利費)の差異から、コストギャップを計算すると、A社では、活動が要求する人件費<現在の人件費 (月額換算)約80万円 言い換えると (月額換算)約80万円 ものマイナスのコストギャップを起こしていたのである。

(コンサル)
「成長している企業は、本来の資格>現在の資格 の時間比率が高いものです。人財育成の観点から申し上げても、社員一人一人が、本来の資格>現在の資格 の仕事をすることが望ましいのです。残念ながら、御社の場合は成長企業と全く逆の傾向を示しています。 調査結果を見ると、上位職者が一般社員の仕事をしているようです。見てください、時間単価 3‚600円の課長が、単価 1‚400円の社員の仕事をしているのですよ。一方、一般社員の中には、自分の資格以上の活動を担当している方がいらっしゃいます。」
(社長)
「薄々、上位職者が一般社員の仕事をしてると気づいていたが、これほどひどいとは・・・。これでは、人件費の無駄遣いではないか。なぜ、このような結果になってしまったのか。」
(コンサル)
「原因は、複数考えられます。一つは、上位職者が自分の役割、使命を理解していないこと、二つ目は、評価の基準があいまいなこと・・・。」
(社長)
「要は、人事制度の問題か?」
(コンサル)
「人事制度の問題だけではありません。三つ目は、仕事のプロセスの問題です。人事課長が、給与明細詰めを行なわなければならないような、非効率的な仕事のプロセスが蔓延しているのでしょう。その結果、人件費だけではなく、管理コスト全体が肥大化している可能性があります。」
(社長)
「非効率的な仕事のプロセスが蔓延しているとは、よく理解できないな。どこに非効率的な仕事のプロセスがあるのか、どうして判るのか。それは、どうしたら改善できるのか。もう少し、判りやすく教えて欲しい。」
(コンサル)
「仕事のプロセスを検討する前に、もう少し活動内容を分析しましょう。
活動項目を
1. 新たな仕事を創造したり改善する「企画活動」
2. 仕事の進め方や品質を維持する「管理活動」
3. 仕事を推進する「実施・処理活動」
に分類しましょう。そして、活動時間を集計しましょう。
その活動時間の集計に基づいて、非効率的な仕事のプロセスについて検討しましょう。」

※ ということで、次に「企画活動」「管理活動」「実施・処理活動」について分析が行なわれました(人事制度については、別の対応をしていますが、その内容はあらためてご報告します)。

次回のコンサルティング物語は、A社の非効率的な仕事のプロセスについて、ご報告します。

A社の事例 その3

「全員で処理業務ばかりをやっとるのか」

職務分析で抽出した活動を
1. 「企画活動」
2. 「管理活動」
3. 「実施・処理活動」
に分類して集計を出したところ、活動時間の約85%を「実施・処理活動」が占めていたのである。
1. 「企画活動」 ・・・ 3.0%
2. 「管理活動」 ・・・12.4%
3. 「実施・処理活動」・・・84.6%
さらに、人事課長の活動時間を分析すると、人事課長ですら約60%の活動時間が、「実施・処理活動」に費やされていたのである。

(コンサル)
「企業が成長するためには、社内外の環境の変化に合わせて、仕事のプロセスを創造あるいは改善していく「企画能力」が備わっていなければなりません。残念ながら、職務分析を見る限り、御社においては企画能力を具体化する「企画活動」が行われていません。社長がお気づきの範囲で、十年一日のごとく同じやり方をしている業務はありませんか。」
(社長)
「このような仕事のやりかたでは、私がいくら管理部門に制度改革を求めても、動かないわけだ。ご指摘の通り、人事制度において職能資格制度を導入したのは、私が副社長時代だから、十数年前。業界でも早い時期での導入だったと思う。しかし、それ以来、メンテナンスがされていない。いや、メンテナンスされていない理由が良くわかった。」
(コンサル)
「人事課長は、自分が果たすべき役割・責任を理解されているでしょうか。あるいは、社長から、人事課長に対して役割・責任を指示されていますか。」
(社長)
「この結果からして、本人は理解していないだろう。私も人事課長に対して、具体的な役割や責任を指示していない。コンサルタントの言いたいことは、人事課長をはじめ幹部社員に対して、具体的な役割や責任を指示せということか?」
(コンサル)
「部門の責任者や上位職者が自分の役割・責任を理解していないことは大きな問題です。その点で申し上げれば、社長の方針管理の問題です。しかし、部門の責任者や上位職者に責任を果たす能力が備わっていないとすれば、また、評価が正しく行われていないとすれば、人事制度の問題です。この2つの問題も、大変重要な問題ですが、時間をかけて検討しなければなりません。
一方、コストを流出させている、約85%の「実施・処理活動」にメスを入れなければなりません。」
(社長)
「それは、具体的に、どのような対策を打てばよいのか。」
(社長)
「OBのネットワークが弱くなっている!」
(コンサル)
「「業務毎に[御社で実際にかかっているコストあるいは本来の資格の方が活動した場合のコスト]と[市場コスト(アウトソーシングを活用した場合のコスト)]を比較して、
1. 自社での革新
2. 別会社(子会社)化による革新
3. アウトソーシングの活用
を検討するのです。
例えば、給与計算業務であれば、給与計算業務に付随する人件費以外のコストも加算して、市場価格と比較するのです。
次回は、御社のコストと市場コストを比較して、対策を検討しましょう。」

※ ということで、「社内コストと市場コスト」の比較が行われました。

次回のコンサルティング物語は、A社の「実施・処理活動」に対する対応について、ご報告します。

A社の事例 その4

「市場価格の2倍もコストがかかっているのか」

給与計算業務のコストを市場価格(アウトソーシングコスト)と比較したところ、こんな答えが返ってきたのである。
つまり、給与計算業務のコストから、社員一人当たりにかかっているコストを算出したところ、アウトソーシング会社に依頼した場合にかかる、社員一人当たりのコストの約2倍弱の金額になったのである。

(社長)
「なぜ、こんなに差がつくのか、私にはよく判らん。」

社長は、悩んでしまった。

(コンサル)
「専門的な業務に特化していますから、人件費単価の問題、業務システムや熟練度による効率の問題、コンピュータ等の設備投資の問題、その他要因はいくつもあります。」
(社長)
「我社のコストと市場コストとで、これだけの差があるのなら、我社も給与計算業務をアウトソーシングした方が良いのではないか。」
(コンサル)
「少し、待ってください。給与計算業務だけを見れば、おっしゃる通りです。しかし、御社の管理部門は給与計算だけをしているのではないでしょう。管理部門全体で考えなければなりません。また、先日も申し上げたように、解決策はアウトソーシングだけではありません。管理部門全体の業務を革新するという観点から、
1. 自社での革新
2. 別会社(子会社)化による革新
3. アウトソーシングの活用
という選択肢のなかで、我社にとってのメリットデメリットを検討する必要があります。」
(社長)
「アウトソーシングのメリットは何か。」
(コンサル)
「もちろん、革新のスピードとコストパフォーマンスです。」
(社長)
「デメリットは何か。」
(コンサル)
「現在の担当者の処遇です。また、アウトソーシング会社を管理する能力が御社にあるか、という問題もあります。」
(社長)
「では、自社で革新した場合のメリット、デメリットは何か。」
(コンサル)
「アウトソーシングの逆です。メリットは、社員の動揺を抑えることができますが、デメリットとして、現状の仕組みに制約されて、革新のスピードが遅いことです。」
(社長)
「別会社や子会社化とは、どのような体制にするのか。」
(コンサル)
「例えば、管理部門の処理業務だけを請負う別会社を作るのです。別会社は、A社グループ内のアウトソーサーです。担当者を別会社に移した上で、効率を求めるのです。」

その後、A社においては、給与計算業務以外の業務についてもコスト計算を行い、市場価格と比較していったのである。そして、自社(子会社化も含む)で革新を実行した場合、どこまでコスト削減ができるかシミュレーションも行われた。その結果、A社の社長の出した結論は、管理部門の処理業務機能を子会社に移し、A社と業務契約を結び、効率化を図ることであった。現在も、効率化に向けた取組が行われているが、単位当たりのコストは、着実に市場価格に近づいている。

ABC診断を活用して、管理部門の革新を行った事例です。
A社では、結果として、子会社化を選択しましたが、それぞれの企業の状況に応じて、
1. 自社での革新
2. 別会社(子会社)化による革新
3. アウトソーシングの活用
の選択肢を検討すべきだと考えます。
その際、自社のコストを正しく把握することが、検討の原点であることを忘れないでください。