コンサルティング物語

競合他社との差別化を実現する在庫の最適化

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

 競合他社との差別化を実現する在庫の最適化 −経営戦略と在庫の整合性−


その1

コンサルティング物語

〜在庫金額と在庫アイテムが減らない〜

大阪には、独立して活動している中小企業診断士(プロのコンサルタント)が所属している団体として「(一社)大阪中小企業診断士会(以下診断士会)」があります。その診断士会の有志で立ち上げた商品開発グループに「在庫最適化グループ」があり、私は、在庫最適化グループのリーダーをしています。
今回のコンサルティング物語は、「在庫最適化グループ」が支援をして、競合他社と差別化を実現した卸売業U社のお話をします。
 U社の概要(取扱商品・数字等は加工しています)
 所在地:県庁所在地
 業種:卸売業
 売上高:4,000 百万円
 取扱商品:日用雑貨・化粧品 等
X社長は、3代目の経営者。超ワンマンであった先代経営者(V会長)の後を引き継ぎ、10年になります。X社長は、ワンマン型のV会長を反面教師として育った調整型の経営者です。私どもとのご縁は、2年前、在庫最適化グループのセミナーに参加されて、個別相談を受けられたことに始まります。

以下は、個別相談の時のヒアリング内容です。


X社長: 我が社は、創業70年の日用雑貨卸です。創業社長(私の祖父)は、戦後、物資のない時代に、地域の生活を豊かにしたいという想いから、生活物資を調達して販売する卸売業を始めました。地域の日用雑貨店に愛され、順調に業績を伸ばしてきました。先代の社長(私の父親:V会長)は、積極的に、地域資本のスーパーやホームセンター、ドラッグストアとの取引をおこない、さらには、全国チェーンのスーパーやホームセンター、ドラッグストアとの取引を拡大して、当社の基盤を創ってきました。
 しかし、リーマンショック以降、売上が停滞するとともに、規模を追求したことが裏目となり、収益性が急速に悪化しました。このような状況の中で、10年前に、私が経営を引き継いだのです。V会長は、超ワンマン型の経営者であり、業績の拡大とは裏腹に、自分の意に合わない社員を、数多く辞めさせてしまいました。そのために、中堅社員が育っておらず、私と一緒に経営を改革する人材は残っていませんでした。
コンサル:それで、どのような改革に取り組まれたのですか。
X社長: V会長は、良くも悪くも超ワンマン型の経営者でした。その良い面は、物流において発揮されたと思います。身の丈を超えた受発注システム、在庫管理システムを導入して、欠品率の大幅な減少、物流作業の効率化、タイムリーな在庫確認 等、物流品質の向上に結び付けたのです。今でも、我が社の物流システムは、顧客からの評価を受けていると思います。
一方で、システム開発を優先したために、商品開発・商品調達が後手にまわり、その結果、商品構成は大手メーカーの商品に片寄り、大手卸との差別化ができなくなっていました。そこで改革の第一歩として、私自身が商品開発の責任者となって、新しい商品の発掘をおこなっていったのです。
コンサル: なるほど、顧客から評価される物流システムというのは素晴らしいです。そして、その物流システムの強みを活かして、商品開発に取り組まれたのですね。そこで、在庫最適化の相談というのは、どのようなご相談でしょうか。
X社長: 私は、V会長のように、超ワンマン型の経営者ではありません。どちらかというと、V会長を反面教師として、経営観を培ってきました。私の経営スタイルとして、リーダー人材が不足していることも一因としてありましたが、可能な限り、中堅・若手社員と対話を重ねながら、収益性を重視した、営業戦略、商品戦略を進めてきたのです。従って、商品開発も、数年後には若手を中心としたプロジェクトで推進するようにしたのです。
しかし、数年前から、資金繰りが非常に厳しくなってきました。そして、その原因を探ろうと、過去の売上高と在庫金額、商品アイテム数の変化を調べてみたのです。その結果、売上高は減少しているにもかかわらず、在庫金額および商品アイテム数が増加しているという、驚くべきことが判明しました。
コンサル: 今まで、売上と在庫の関係を見てこられなかったのですか。
X社長: いえ、在庫の回転率が低下していることは気付いていましたし、資金繰りを圧迫していることも、薄々気付いていました。しかし、収益性を改善するためには、取扱商品を変えていくことが重要だと考え、新しい領域の商品を積極的に導入してきました。さらに、現実の商売を考えると、欠品率の削減、タイムリーな納期回答、納品のスピードアップ、店舗別配送への対応等、顧客への物流サービスの向上を優先してきたのです。
コンサル: それで、在庫そのものの在り様に対して、手を打つのが遅れた ということでしょうか。
X社長: その通りです。今日のセミナーを聞いて、皆さんの力を借りたいと思いました。一度、弊社に来て、在庫の実態を診てもらうことは可能でしょうか。
コンサル: わかりました。在庫最適化グループのメンバーが、御社の現状に対するヒアリングと在庫の実態の調査に参ります。

このようにして、在庫最適化グループの選抜メンバー3名が、U社を訪問することになりました。U社を訪問した時の様子は、次回、ご報告します。

※在庫最適化グループでは、在庫最適化支援を、業務プロセス担当・倉庫担当・IT担当の3名体制で対応しています。

※在庫最適化グループでは、在庫最適化の成熟度を7段階で把握しています(詳細は「在庫を最適化するために」を参照)。個別相談の内容から、U社は、レベル4もしくはレベル5の企業と仮説をたてて、訪問することにしました。

* *



その2

コンサルティング物語

〜戦略と在庫のバランスがとれていない〜

U社を訪問したコンサルタント3名は、まず、U社が取り組んでいる戦略について、ヒアリングをおこないました。


コンサルA: 先日の個別相談会では「大手卸との競争環境が厳しくなった」とうかがいましたが、具体的にはどのようなことが起こっているのでしょうか。
X社長: 日用雑貨の業界は、大手卸と私どものような中堅卸、さらに特殊な商品だけを取り扱う専門卸とに分類されます。大手卸は、巨大化する量販店に対応するために、中小の卸を合併して、規模を拡大してきました。私どもも量販店を得意先に持っていますが、ナショナルブランド商品(以下「NB商品」)では、納価で対応できません。過去は、物流システムを武器に、一定の納価対応をすることによって、NB商品の取引を維持していこうと取り組んできましたが、顧客の価格に対する要求は厳しく、経費を削減しても収益性の悪化に歯止めがかかりませんでした。
コンサルB: そこで、取り扱い商品の構造を変えようと考えられた訳ですか。
X社長: そうです。結局、NB商品を中心に販売しても、収益性の改善は見込めないと判断して、オリジナル商品(プライベートブランド商品:以下「PB商品」)の開発に取り組んだのです。
コンサルC: 先日の個別商談会では、若手を中心としたプロジェクトで、商品開発を推進しているとお聞きしました。
X社長: 私どもが、すぐに新しい商品開発ができるとは考えられませんでした。そこで、最初は、私が率先垂範して、地域の特産品を探索して、私どもの会社用に商品改良を依頼したのです。
コンサルC: 新しい商品の導入は、順調に進んだのですか。
X社長: いいえ。最初は、営業からの猛反対がありました。営業は、今の顧客にあう商品、言い換えると、量販店が要望する量産できる商品しか受け入れませんでした。しかし、地域の特産品を生産するメーカーは、中小規模のメーカーです。量産することは不可能です。
コンサルA: それで、社長は、どのような取り組みをされたのですか。
X社長: 当初、私が新しく開発した商品を販売する“市場開拓チーム”を、若手を中心に発足させたのです。そして、将来的には、市場の声を肌で感じる彼らに商品開発を任せるつもりでした。市場開拓チームには、量販店ではない、セレクトショップやナチュラルショップを中心に開拓を進めるように指示しました。また、差別化を図りたい業務用市場も開拓のターゲットにしました。
コンサルA: 開拓は、順調に進んだのですか。
X社長: 最初は苦労しましたが、徐々に顧客が増えていきました。また、新商品に対する提案もいただけるようになりました。そこで、新しい市場の顧客の要望に応えていくために、市場開拓チームに商品開発を任せていったのです。
コンサルB: 商品開発は順調に進んでいるのですか。
X社長: 新商品の利益率は高いものの、売上高の構成比は、全体の2.5%程度です。新商品の売上高は伸びていますが、量販店の売上減、収益性の悪化をカバーできる水準ではありません。
コンサルA: 新しい市場に、事業領域をシフトする前に、資金繰りが厳しくなってしまったということですね。
X社長: 新しい市場は有望です。新商品開発の方向性も間違っていないと考えています。しかし、現実は、収益性の悪化と在庫の増加で、資金繰りにおいては、ダブルパンチの状態です。このままでは、新商品に対する投資も厳しくなってきます。
コンサルC: 実績数字をみせていただくと、既存市場(量販店中心の市場)の売上は逓減していますが、在庫アイテムも在庫水準も増加傾向にあります。新規市場(こだわり市場)の在庫アイテム数は年々増えていますし、売上高に対して在庫水準も高いですね。
X社長: 既存市場に対して、商品の入れ替えをして、何とか売上を伸ばそうとしています。それで、アイテムが増えている可能性があります。一方、アイテムごとの売上が減っていますが、仕入ロットの関係から、過剰仕入をしている可能性があります。
X社長: 新規市場においては、戦略的に商品開発を積極的に進めたことから、商品アイテムも在庫数量も増えています。新規市場に対しては、商品開発を先行投資と考え、アイテム数や在庫水準について、あまりチェックをしていませんでした。
コンサルA: 経営戦略としては、新しい市場に事業領域をシフトさせようと取り組んでいますが、在庫投資については、「経営戦略や営業実績とは別の価値観でおこなわれてきた」という理解でよろしいですか。
X社長: 言われてみると、その通りです。
コンサルA: それでは、今度は、データから御社の実態を把握させてください。

ヒアリングによって、「経営戦略と在庫投資のバランスが崩れてきたことから、アイテム数・在庫水準の増加を招き、結果として、商品の回転率の低下を招いている」との仮説を得た在庫最適化グループは、仮説を検証するために、データ分析に取り組んだのでした。
データ分析の結果は、次回報告します。

* *



その3

コンサルティング物語

〜売上に貢献していない在庫を抽出する〜

データ分析の結果(千円,%,回,SKU)は、

                    
 5年前前期
売上高5,000,0004,000,000
粗利益率15.2%13.5%
平均在庫240,000280,000
在庫回転率20.8314.28
アイテム数7,5008,000

という内容でした。
[注]SKUとは、商品の最小管理単位(Stock Keeping Unit)の略。本来、アイテムとSKUは、違うものですが、本物語では、同意語として扱っている。

さらに、売上高および在庫金額とSKUの関係は、
売上高80%に貢献しているアイテム数  1,200 SKU(総SKU対比15%)
在庫金額80%を占めているアイテム数  2,400 SKU(総SKU対比30%)
という内容でした。在庫最適化グループでは、データ分析の背景にある事実を把握するために、社長および経営幹部に対して、様々な角度から質問をしていきました


コンサルA: データ分析の数値結果に基づき、結果の背景について、様々な角度から質問をさせていただきます。データに基づいてヒアリングさせていただくことは、事実を知るためにおこなうもので、現段階では、経営者や経営幹部の方々の行動を評価したり、非難したりするものではありません。
X社長: 了解しました。経営幹部にも、ヒアリングの意図を伝えておきます。

このようにして、ヒアリングが始まりました。

コンサルA: 売上高80%に貢献しているアイテム数は、1,200 SKU(総SKU対比15%)となっています。一般的には、20:80の法則といって、総SKU対比20% のSKUが、80%の売上高を構成しています。御社の場合、売上高80%に貢献しているアイテムが、上位商品に集中している傾向にあります。どのようなアイテムが、売上高に貢献しているのでしょうか。
X社長: 当社が大手量販店に対して、価格競争力を持っている商品は、先代のV会長の時代から主力で扱っている、「メーカー〇〇の商品××」であり、また、「メーカー△△の商品◇◇」です。従って、「メーカー○○」と「メーカー△△」の商品の売上高構成が高いという認識はありましたが、正直、これほど特定メーカーの商品に依存しているとは考えもしていませんでした。今までは、物流システムの優位性から、「他のメーカー」の構成比も高かったと思うのです。しかし、近年、競合他社も、物流システムの強化を図っており、「他のメーカー商品」の競争力が、年々、低下している結果の現れです。
コンサルA: ということは、売上高の減少さらには粗利益率の減少の原因は、「他のメーカー商品」の売上高の減少・粗利益率の減少にあるということになりますか。
X社長: そのとおりです。「他のメーカー商品」の売上高の減少に歯止めをかけるために、価格対応をして粗利益率を落とし、また、それでも対応できない場合は、取引から撤退して、売上高を落としているのです。このままでは、遠くない未来に、我々の会社は消滅することになります。そこで、事業領域を変えていく決心をしたのです。

(中略)

コンサルB: 売上高80%に貢献しているアイテム数は、1,200 SKUです。一方、在庫金額80%を占めているアイテム数は、2,400 SKUあります。単純に考えると、在庫視点の2,400 SKUから、売上高視点の1,200 SKUを引いた1,200 SKUは、売上高80%に貢献していないアイテムが過剰に在庫されていることになります。
X社長: 新しい事業領域の商品を、積極的に開発したことによって、SKUが増加していることは認識していました。しかし、在庫金額のシェアを占めていて、売上高に貢献していないアイテム数が、1,200 SKUもあるとは驚きです。これだけ、在庫に資金を固定化させていれば、自分で自分の首を絞めているのと同じです。
コンサルC: 在庫金額のシェアを占めていて、売上高に貢献していないアイテム数が、1,200 SKUもある原因をどのようにお考えですか。
X社長: SKUの増加の要因をあらためて考えると、新しい事業領域の商品を、積極的に開発する一方で、既存市場の商品をカットする認識に欠けていました。今一度、SKUごとの商品の動向を把握しなければなりません。さらに、売上高に貢献していない在庫については、現状では推測になりますが、「他のメーカー商品」の売上高が減少しているにも関わらず、仕入は、従来と同じロットや仕入頻度で、メーカーに発注していると考えられます。早急に、撤退する商品を整理するとともに、発注内容の見直しを図らなければなりません。

(中略)

このようにして、X社長は、在庫の実態を把握する取り組みに着手しました。この取り組みの中から、X社長の推測通り、「その他メーカー商品」の売上高と在庫水準にギャップがあり、売上高に貢献していない在庫商品が明確になりました。
在庫の実態が明確になったことにより、在庫最適化に向けたプロジェクトが発足して、具体的な取り組みがスタートしたのです。
在庫最適化に向けた取り組みは、次回にご報告します。



その4

コンサルティング物語

〜商品アイテムを削減する〜

営業部門は、商品アイテムが充実して、なおかつ欠品しないことが、顧客への最大のサービスだと考えます。一方、商品の調達部門では、発注ロットをまとめるほうが、発注コストが下がり、また、リベート等が増額されることにより、原価低減に貢献すると考えます。さらに、経営判断として、あらたな事業領域に参入するためには、その事業領域に応じた商品を品揃えしなければなりません。在庫の最適化というのは、在庫金額を最適化することにとどまらず、事業戦略に対して、欠品率、発注ロット、品揃えを最適化することなのです。
U社では、社長をリーダー、各部門(営業、仕入、市場開拓、管理)を代表する社員をメンバーとする在庫最適化プロジェクトチームを立ち上げました。
第一回目のプロジェクト会議では、最初に、X社長が、会社の方向性を踏まえ、会社の売上・利益の実態・在庫の実態および厳しい資金繰りの状況を解説、その上で、資金繰り悪化の要因として、利益額の低下に加えて、在庫の増加があることを説明しました。さらに、今回のプロジェクトチームは、「在庫の最適化を図り、資金繰りを改善して、健全な会社の姿、存続できる会社の姿にすること」を目的として立ち上げたものであり、皆さんが、会社の変革メンバーとして選ばれたことを訴えました。次に、コンサルティングチームが、業績と在庫の推移を診断した結果、および在庫が経営戦略や資金繰りに与える影響を解説、その後、なぜ、このような在庫の状況になっているのか、ブレーンストーミングで、現場の実態について、認識を共有しました。
(プロジェクトメンバーは、在庫の状態について、ほとんど認識がありませんでした)


プロジェクト(第二回目)

コンサルA: 現状の問題を解決するためには、在庫最適化の方向について、全員が共通認識を持つ必要があります。“5年前の実績を踏まえてコンサルチームが準備した資料”をたたき台として、現在の売上高に対する在庫水準のあるべき姿を仮説的に想定してみましょう。

(議論の内容は割愛します)

    
  5年前 前期 あるべき姿(仮説)
売上高 5,000,000 4,000,000 4,000,000
粗利益率 15.2% 13.5% 15.0%
平均在庫 240,000 280,000 224,000
在庫回転率 20.83 14.28 17.80
アイテム数 7,500 8,000 6,400
売上高/アイテム数 667 500 625

コンサルA: 妥当なあるべき姿に落ち着いたのではないでしょうか。あるべき姿の実現も来期末と設定されました。
コンサルB: まだ、具体的な施策の議論ができていないので、メンバーの方々の中には、本当に実現可能なのか、と不安に思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは、この議論した数字を必ず実現するという強い気持ちで、数字の枠組みや施策を考えましょう。
コンサルA: まず、アイテム数を20%削減すると、仮説的に設定しました。アイテム数から整理しましょう。まず、一定の基準(たとえば、売上高順位)で並べ替えします。下位20%のアイテムは、在庫カットの対象です。しかし、下位20%であっても、新しい事業のアイテムは、戦略商品として残し、そのアイテム数は、既存事業のアイテムをカットします。仕入担当のDさん、お願いしていた並べ替え結果を発表してください。
仕入担当D: 半年間の売上累計に貢献しているアイテムを並べ替え、下位20%を抽出しました。その中から、6ヶ月間、入出庫データのないアイテムをブルーのマーカーで線を入れています。また、下位20%のアイテムでも、新しい事業の戦略商品をグリーンのマーカーで線を入れています。この新しい事業の戦略商品(200アイテム)を存続させるとすると、200アイテムを下位20%以外の商品から選別する必要があります。
コンサルA: では、下位から順番に、200アイテムを付け加えましょう。まず、既存事業として、8,000アイテムから6,400アイテムに削減することが可能か、具体的な商品で検討します。
営業担当E: 具体的な商品を見ると、対象となっている全アイテムを削減することは困難です。たとえば、1番の商品は、この商品があるから、●●小売グループに、売上高貢献度の高い、◆◆という商品が売れている。5番の商品も、この商品と紐づいて、◎◎小売グループにおいて、■■の商品が売れている。
(中略)
これらの商品を削減すると、売上が大幅にダウンします。
また、50番と78番の商品は、口紅のシリーズの1本です。口紅は、シリーズをフルラインアップしているので売れるものです。歯抜けでは、口紅は売れません。
(中略)
既存企業のアイテムを20%カットするのは無理です。
コンサルC: 今までの顧客とのつながりがありますので、アイテムを削減するのは、至難の業です。また、杓子定規に削減することは、現実の取引を無視した意思決定です。たとえば、1番の商品の場合、削減しないとすれば、●●小売グループの◆◆という商品の売上高を現状維持できますか。その点、営業として目標設定をして、責任を持って、販売してもらうことを条件に残すという考えはいかがですか。
一方、5番の商品も◎◎小売グループの■■の商品と紐づいているようですが、◎◎小売グループの利益率は非常に低いです。そもそも、◎◎小売グループとの取引を継続するべきでしょうか。
(中略)
 
コンサルA: いろいろと議論していますが、我々も、杓子定規に削減することは、考えていません。営業の立場があることも理解しています。ただ、アイテム削減が難しいというだけでは、問題解決になりませんので、アイテムを残すのであれば、残す理由と残した結果の数字に対して、責任を持ってもらいたいと考えています。営業部門と仕入部門で、アイテム削減することによる顧客への影響だけでなく、削減することに反発する顧客との取引を継続するべきなのか まで、踏み込んで検討してください。
管理担当F: 一つ、質問しても良いですか。売上貢献度の低いアイテムだけを削減しても、在庫金額の削減に対する影響は小さいと思います。もっと、抜本的な取り組みが必要なのではないでしょうか。
コンサルA: 非常に良い質問です。今回の在庫最適化の本丸は、在庫金額が多いけれども、売上貢献の低いアイテムに対する取り組みをどのようにしていくかです。今後、在庫最適化の本丸に向けて、議論を進めていきましょう。

売上貢献の低いアイテムの削減に対する営業部門の反発は激しいものがありました。反発も受け止めながら、徹底して、議論を重ねる中で、目標の6,400アイテムに上乗せして、200アイテムを復活させることにしました。
毎年、新しい商品がメーカーから発売されます。しかし、新しい商品を導入して、既存の商品を廃止にしなければ、在庫のアイテムは増えるばかりです。
次回は、いよいよ在庫最適化の本丸に迫ります。



その5

コンサルティング物語

〜全体最適への取り組み(在庫金額と売上貢献のバランスをとる)〜

売上高と在庫金額、売上に貢献しているアイテムと在庫アイテムのバランスを考えることは、頭で考えるほど、単純ではありません。特に、縮小する事業領域においては、過去、売上高シェアの高かった商品に、過去の販売-仕入のしがらみが残っていて、在庫を削減するという意思決定が困難となっています。U社の場合も同様でした。


コンサルA: この資料を見てください。在庫金額80%を占めていて、売上高80%に貢献していないアイテム数 1,200 SKU(2,400 SKU - 1,200 SKU その3 参照)の 過去3年間における商品回転率の変化です。アイテムにより差異がありますが、平均すると、5年前 22.00 回転から 現在 14.00 回転となっており、全社の平均以上に、商品回転率が低下しています。一方、仕入の実態は、ロットをまとめて仕入れる、あるいはシーズン前に大量に仕入れるという、過去の仕入の仕方を踏襲しています。
仕入担当D: これらの商品に対して、営業に販売予測を聞くと、昨年並みの販売を予定しているという答えが返ってきます。従って、一回の発注量をまとめたほうが、値引き幅が大きくなりますし、また、シーズン前であれば、早期仕入謝礼というメリットもありますので、ロットをまとめた仕入をしています。
コンサルB: しかし、現実には、販売予測と販売実績にギャップがあるために、在庫金額が増えているということですね。
営業担当E: しかし、この値引きや謝礼がないと、我々は、同業他社との価格競争に勝てません。
コンサルC: 厳しい競争の第一線で苦労されていることは良くわかります。もう少し、営業の実態を教えてもらえますか。◇◇メーカーの商品◆◆の売上の落ち込みが激しいですが、理由はなんですか。
営業担当E: もともと、商品◆◆は、我が社の戦略商品で、納品対応の良さと一定の価格対応によって、売上高順位も上位の商品でした。しかし、大手の競合卸は、徹底した低価格で攻めてきます。納品対応の良さだけでは、価格に対抗できません。メーカーからは、一定の価格補填がありますが、それでも大手の競合卸には勝てないのです。一方、取引のある顧客に対しては、欠品するわけにはいきません、一定の在庫量が必要なのです。
コンサルA: 商品◆◆の販売-仕入の仕組みを、今後、どのように構築するのか、または、売上が落ちているから撤退するのか、御社の方向性を決めるモデルとなる事例なので、この事例に基づいて、対応を考えてみましょう。
在庫の回転率が悪化するということは、どういうことでしょうか。
管理担当F: 仕入に使ったお金を回収するのに時間がかかるということです。そのために、資金繰りが悪くなり、金融機関からお金を借りて、その分の金利を支払わなければなりません。
仕入担当D: 在庫数が増えるので、倉庫の作業効率が悪くなります。今、売上高は落ちているのに、現場の作業員の数は減っていません。
コンサルA: そうです。在庫の回転率が悪くなると、金利や人件費として、無駄なお金が発生するのです。
営業担当E: では、商品◆◆の販売から撤退するということですか。それでは、過去から、我が社を支え続けてくれた顧客との関係が維持できなくなります。
コンサルC: それは、少し飛躍しすぎた考え方でしょう。今、商品◆◆の売上がなくなると会社の利益が厳しくなります。簡単に撤退するわけにはいきません。撤退は最後の手段です。商品◆◆の回転率を高めるために、どのような取り組みが考えられるのか、みんなで考えてみましょう。ここでは、粗利益率よりも、回転率を優先して考えることが重要です。
  (中略)

プロジェクトメンバーからは、仕入ロットを見直す、類似商品を集約する、得意先にイベントを仕掛ける、営業と仕入とのコミュニケーションを密にする等々の意見が出てきました。商品◆◆で抽出した対策を、ひとつのモデルとして、売上に貢献していないにもかかわらず、在庫金額の多い商品に当てはめていったのです。その上で、あらたな取り組みをしても、経営の変革に寄与しない商品からは撤退する、という意思決定をしていったのでした。


X社長 : 今回のプロジェクトの議論を聞いていて、我々は、いかに利益しか考えていなかったか、痛感しました。在庫の回転率の意味もまったく理解していませんでした。
コンサルA: そうですね。利益を追求しても、在庫として資金が固定してしまうと、キャッシュフローが悪化していきます。キャッシュフローが悪化すると、あらたな事業分野への投資ができなくなります。御社の場合には、あらたな事業分野に向けた商品開発や営業活動が制限されてしまうのです。仕事をしていない在庫を徹底的に排除しなければなりません。
X社長 : さらに、在庫の問題は、仕入や倉庫の問題ではないのですね。営業を巻き込まなければならないことも、目から鱗のできごとでした。特に、営業が在庫の最適化に取り組む姿勢を示すことによって、市場開拓部門に、さらなる責任意識が芽生え、目の色が変わってきました。
コンサルB: 営業には、顧客が要求しているという大義名分があり、なかなか現状を変えようとしません。そのために、多くの会社では、在庫の問題を仕入や倉庫の問題として解決しようとしますが、大きな成果には結びつかないのです。
コンサルC: 在庫の最適化は、会社全体の問題ですが、在庫の問題を社内で対応しようとすると、部門の力関係によって、なかなか問題解決に至りません。ここに、在庫最適化グループが、企業の支援をおこなっている意味があると考えています。
コンサルA: 今後、さらなる在庫最適化に結びつけるためには、社長の気づきを会社の企業文化として醸成していく必要があります。つまり、利益重視からキャッシュフロー重視の企業文化を醸成し、在庫の最適化を全社の問題と捉える環境を定着させるのです。

利益重視からキャッシュフロー重視の企業文化を醸成し、在庫の最適化を全社の問題と捉える環境づくりについては、次回ご報告します。



その6

コンサルティング物語

〜利益重視からキャッシュフロー重視へ、企業文化に変える〜

企業文化とはどのようなものでしょうか。
企業や事業体といった組織は、人で構成され人々が共に働くことから価値が創り出されます。仕事の内容や進め方は、予め設計されマニュアル等に定義されていることが多くありますが、実際の実行局面では、働く人々の人間的摩擦や歴史の中で築かれた習慣、暗黙の了解に影響を受けることになります。
こうした仕組みを運用する「組織能力の根底に流れる生活様式、風習や精神構造」を企業文化と呼びます。要するに、企業文化とは、「企業独自の考え方」、「習慣」に基づく「行動様式」です。従って、「行動様式」を変えなければ、求める成果は出ないのです。

(経営品質向上プログラム テキストより)

企業文化を変えるということは、「企業独自の考え方=価値観」「習慣」を変えるということです。


コンサルA: プロジェクトメンバーの方々にお聞きします。皆さんが判断や行動するうえで、今まで、「最も大切にしてこられた考え方」は何でしょうか。
営業担当E: 顧客ごとに、売上と利益を最大化することです。過去は、利益率が低くても売上高をあげていけば、利益額を稼ぐことができましたが、近年は、利益率の良い商品を販売するように指示しています。
仕入担当D: いつの間に、利益率の良い商品を販売するようにシフトされたのですか。仕入部門は、定番化された商品を1円でも安く仕入れるように努力してきたのですよ。
営業担当E: Dさんの言うとおりだ、営業としても、1円でも良い条件を補填してもらえるように、メーカーと交渉している、しかし、それだけでは利益率の低下、利益額減少に歯止めがかけられない。
仕入担当D: それで、知らない商品が増えているのですか。
コンサルB: あらたな部門間の問題も見えてきました。Dさんは、1円でも安く仕入れられるように、仕入条件の交渉をしているということですね。
仕入担当D: そうです。ですから、仕入ロットと仕入価格の交渉、早期仕入による価格補填交渉などをおこなっています。あと、作業効率を考えて、納品時間の交渉などもおこなっています。
コンサルC: 市場開発担当のGさんの意見を聞きましょう。
市場開拓担当G: 新しい市場で受け入れられる、供給量は少なくても、利益率の高い商品を開発することです。まだまだ、市場開発部門の売上高が小さいので、商品の開発においても慎重にならざるを得ません。
コンサルC: 管理担当のFさんの意見はいかがですか。
管理担当F: 年々、資金繰りが厳しくなっていますので、まずは、回収の徹底です。さらに、売上予測と実績の乖離が資金繰りに影響を与えないように、営業からの情報収集を第一に考えています。今回、資金繰りが厳しくなっている原因が、売上高・利益額の減少だけでないことに驚きました。仕入や在庫に対する意識は、本当に薄かったと反省しています。
コンサルA: X社長が「最も大切にしてこられた考え方」は何ですか。
X社長:

親父のV会長の時代から、デリバリーを重視してきました。特に、欠品に対して厳しく、私も、その考え方を引き継いでいます。一方で、企業規模の維持・拡大を志向してきましたから、既存商品の売上減に対応するために、既存市場および新市場に投入する新しい商品の取り扱いを増やしてきました。さらに、売上を確保するために、販売数量が減少しているにもかかわらず、取扱中止の意思決定が遅れたのも事実です。

コンサルA: ほかに、最も大切にしてこられた考え方について、ご意見はありませんか。
  (中略)

 

コンサルA : 皆さんのご意見を聞いていると、会社として、最も大切にしている考え方は、「デリバリー重視」「利益確保」ではなかったでしょうか。しかし、この考え方が、たとえば、利益率の高い商品を1つ納品するために、1ケース仕入れて、残りの商品が在庫として残ってしまう、あるいは、販売動向を無視してロット仕入をおこなう、という 「適正在庫の軽視」「キャッシュフローの軽視」の状態を容認してきたといえるのではないでしょうか。
X社長: まったく、そのとおりだと思う。
コンサルA : X社長が取り組んでいる戦略は、間違っているとは考えていません。しかし、根本となる会社としての考え方が変わらないと、いくら良い戦略であっても成果には結びつかないのです。
では、今後、「我々が、大切にするべき考え方」を整理していきましょう。皆さんの自由な意見を求めます。X社長のご意見は、最後にお願いします。
  (中略)

 

コンサルA: 多くの意見がでましたが、なかなかまとめるのが難しそうです。X社長のご意見をお願いします。
X社長: 今後、「我々が、大切にするべき考え方」に対する意見を、数多く出してもらってありがとう。みんなが、これだけ問題意識をもって、将来のことを考えた発言をするとは、考えてもみなかった。まずは、自分のみんなに対する認識の低さを反省しているところです。これからは、みんなと一緒に将来のことを議論していきたい。ただ、みんなの意見を聴いていると「顧客の要望に応える」「無駄な仕入をしない」「倉庫の5Sを徹底する」等、部門のリーダーとしての発言に聴こえてくる。もっと、会社全体の視点から、「我々が、大切にするべき考え方」に対する意見が言えるようになってほしい。私も、みんなの意見を聴きながら、「我が社の社員が大切にするべき考え方」を整理したので、ひとつのたたき台として、みんなと議論したいと思う。
私は、「デリバリー重視」「利益確保」の考え方から、「キャッシュフロー重視」「投資効率重視」の考え方を軸とした経営に、シフトさせていきたいと考えている。みんなの意見はどうだろうか。
営業担当E: 「キャッシュフロー重視」「投資効率重視」の経営とは、どのような経営を目指そうとされているのですか。もう少し、具体的に話をしていただけませんか。
  (中略)

このあと、X社長の考え方に対して、さらに、議論が交わされ、社長が提案した「キャッシュフロー重視」「投資効率重視」の考え方に、意見が集約されていったのです。
最後に、管理担当のFさんからの発言がありました。


管理担当F: 今、我々は、多くの議論を重ね、社長の考え方を少しずつ理解できるようになってきました。しかし、社員は「我が社が、大切にするべき考え方」について、我々が、これだけの議論をしていることを知りません。現場に、我々の考え方を浸透させないと、方針の転換に対して、社内が混乱するのではないでしょうか。
コンサルB: Fさん、すばらしい意見です。
コンサルA: Fさんの意見を受けて、ひとつ、提案があります。今まで、U社において、“正しいと考えられていた仕事の進め方や行動”で、「キャッシュフロー重視」「投資効率重視」の考え方からは、“やってはいけない仕事の進め方や行動”を抽出して、掲示をしていきませんか。

このようにして、“今後、やってはいけない仕事の進め方や行動 十か条”ができあがり、あらたな考え方の浸透が図られたのです。

一方、U社では、在庫の最適化により、創出した資金をどのように活用する戦略を構築していったのでしょうか。投資戦略については、次回ご報告します。


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